エピローグ

 八月。空は快晴。絶好の海水浴日和だ。


 僕らは国道18号を北上し、上越を目指していた。僕の車の助手席には芹奈、後席には林さんと杉浦が並んで乗っている。あの後、なんだかんだでこの二人も付き合い始めたようだ。相変わらず口喧嘩が絶えないが。


 一応、名目上はプロジェクトで防雪林を設置する候補地の視察。だが……最終目的地はもちろん五智海岸だった。


 道の途中、僕は野尻湖の周遊道路に入り、キャンプ場で車を停める。


 三か月前、命がけで僕らと僕らのマイクロバイオームが戦った戦場。だが、当時の緊迫した雰囲気はもうどこにもうかがえない。そこは湖水浴客やマリンレジャーを楽しむ人々で賑わっていた。


 僕らの活躍が世間に知られることは、全くなかった。むしろ関係者には全員かん口令が敷かれたのだ。なんといっても国家の……いや世界の安全保障に関わることなのだ。だから僕らがここで世界を救ったことは、ここにいる誰一人として知らないだろう。


「世界を守った僕らのマイクロバイオームに、敬礼」


 僕の合図で、僕ら四人は車の中から湖に向け敬礼する。


 セミ時雨が、一際甲高く響いた。

                                 (了)

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