鏡の受難 3人用台本

ちぃねぇ

第1話 鏡の受難

魔女:鏡よ鏡、この世で一番綺麗なのはだあれ?

鏡:それはもちろん、魔女様にございます

魔女:……おべっかはよしてちょうだい

鏡:え

魔女:今朝、枕元に見つけたの。抜け落ちた白髪を…3本も

鏡:た、たまたまですよ

魔女:それだけじゃないわ。20代の頃はどんなに食べたって翌日にはぺちゃんこになっていた私の可愛いお腹…ごらんなさいよ鏡、つまめるのよ

鏡:旦那様は…ちょっぴりふくよかな女性の方が抱き心地がいいと仰っておりました

魔女:何を言ってるのあの人は。それに、代謝が悪くなってきただけではないわ。…見て、この顔の二重あご。これは肥満と言うよりたるみよ…!魔女と呼ばれているのに自分の老いすら止められないなんて…

鏡:魔女様…それでも魔女様はお美しいです

魔女:…情けないわね、鏡にまで慰められるなんて。若い頃はどんな男だって微笑み一つで跪(ひざまず)かせることが出来たって言うのに…最近じゃ街で声すら掛からないのよ

鏡:声、掛けて欲しいんですか

魔女:掛けて欲しいわよっ!「お姉さん綺麗っすね、今時間ありませんか?僕とお茶しませんか」って…もう何年聞いてないかしらあのフレーズ…!「お姉さん」…ああ、懐かしの「お姉さん」呼びっ…!

鏡:人妻なのにナンパされたいんですか?もう出会い要らないじゃないですか

魔女:そういう問題じゃないのよ

鏡:じゃあ…わたくしでよければ言いましょうか?「お姉さん綺麗っすね」

魔女:かち割っていいかしら

鏡:なぜ…!

魔女:そうよ…私を映す鏡なんてあるから老いを実感してしまうんだわ。あなたを叩き割ってしまえば現実を見ることもなくなる

鏡:魔女様!?お、お気を確かに!?

魔女:そうよそうよ、鏡なんて無くなっていいじゃない…現実なんて直視しなくていいじゃない…

鏡:ちょ、そのトンカチどっから出したんですか!今すぐしまってくださいぃ!

魔女:大体ねぇ、私がこの世で一番綺麗ですって?どこに目をつけているのかしら?

鏡:目なんてついてませんから!鏡ですから!

魔女:この世で一番美しい者、そんなの決まっているじゃないっ!

鏡:トンカチを離してくださいっ!だ、誰かぁぁ!!魔女様を止めてぇぇぇぇ!!


0:白雪姫登場


姫:ちょっと鏡?廊下まで声が響いていますわ、朝っぱらから何をやっていますの?

魔女:はっ…!白雪…!

姫:お母様、おはようございます(にっこり)

魔女:んんん……!私の娘、今日も可愛いいいいい!これがほんとに私の娘?娘なの?

姫:はい、お母様の娘になりました白雪ですわ!

魔女:あうう…!

姫:お父様に感謝しなくては。こんなに美しい方が私のお母様になってくださるなんて…私、本当に幸せ者ですねっ

魔女:かーーーーっ!!心臓が!心臓がぎゅぅぅって…!苦しい、苦しいわ!

姫:まあ、お母様具合が悪いのですか?おでこ、失礼いたしますね

魔女:えっ

姫:(おでこを引っ付けて)ん~熱はなさそうですけれど…念のため主治医を呼びましょうか…お母様?

魔女:はう…かわ…かわいい…おでここつん…あう…っ(ガクッ)

姫:お母様!?

鏡:頭が逝かれましたね

姫:ちょっと鏡!あなたお母様に何をしたの?

鏡:ええ!?わたくし何もしていません!

姫:いいえ、全部あなたのせいよ!

鏡:なんでそうなるんですか!

姫:大体あなたね、ちょーっと喋るからってお母様のドレッサーになることを許されて…ホントに腹が立つわ!

鏡:いや、喋るからドレッサーやってるわけじゃ…

姫:お母様の寝起きのぽやっとしたお顔…私だって見たいのに!

鏡:そこ!?

姫:私も寝起きお母様にお会いしたいのに!お母様ったらいつも隙(すき)無く完璧に身支度を整えてからしか会ってくださらなくて…

鏡:今の魔女様、隙しか無いと思うんですけど

姫:あなたばっかりズルいわ、今すぐドレッサー役代わりなさいよっ

鏡:役って…大体、白雪姫様は鏡じゃないんだからドレッサーになれないでしょうが!どうやって魔女様を映すって言うんですか…

姫:そーなのよ…なんで私鏡じゃないのかしら…ああでも、映せずともお母様の美しさを語ることならば容易い(たやすい)ですわ

姫:キリっと切れ長のおめめにすっと伸びた鼻筋…葡萄(ぶどう)酒のような色気たっぷりの唇…

姫:ああ…お母様、今日の口紅はお母様の色香を一層引き立たせておりますわ、何番の色をお使いですか?私も母様のように美しくなりたいですっ!

鏡:姫様、それ以上は…魔女様が鼻血出しながら気味の悪い笑顔浮かべてますから…魔女様の威厳が…

魔女:あああ、私の娘…かわ…かわやば、とうとみ、んふふふふふっ

姫:まあお母様!お痛わしい…この鏡のせいですね、そうなんですね?…わかりましたわ、今すぐ私が叩き割ってあげますからね!

鏡:だからなんでそうなるの!ちょ、トンカチ拾わないでぇぇ!このバカ親子誰か止めてぇぇぇ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鏡の受難 3人用台本 ちぃねぇ @chiinee0207

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ