ランドセルとじゃんけん 2人用台本

第1話 ランドセルとじゃんけん

男：あ～買えた買えた～ようやく買えたな

女：ええ。…随分悩んでたわね

男：こいつ目移りしすぎだろ。俺の時は一発で決まったぜ？

女：そりゃ、あたしらの頃じゃ考えらんないくらい沢山の色が出てるんだからしょうがないじゃない

男：だからって、ランドセル一個選ぶのに30分は想定外だったわ。今日中に勉強机も見に行きたかったんだけどなぁ

女：まあいいじゃない、最終的に本人大満足のランドセルが買えたんだから。6年間これから毎日使うものでしょう？大輔のこだわりの一個が買えただけでも、儲けものよ

男：確かにな

女：よっぽど真剣に選んだのね。…電池切れたみたいにぐっすり寝てる

男：重たいよ、全く

女：おんぶ、変わろうか？

男：いや……いい。こうやって大輔おぶるのも久しぶりだからな

女：最近ずっと帰宅遅かったもんね。大輔、あなたの顔を見てから寝る！っていつも強情で…寝かしつけ大変なのよ？

男：毎日ありがとう

女：こちらこそ。…仕事大変そうね

男：今だけだよ。もうすぐ落ち着く…はず…落ち着いてくれ…

女：あらあら

男：日付変わる前には帰宅したい…こいつの起きてる顔見たの一週間ぶりだぜ？

女：お疲れ様です。貴重な休み、つきあってくれてありがと

男：何言ってんだ。俺が出かけたかったんだよ

女：…今日はパパとお出かけって、朝からずっとはしゃいでたから…だから余計に疲れちゃったのかしらね。……ふふ、ほんとによく寝てる

男：だとしたら、これは俺が感じるべき重みだな

女：じゃあ家までずっとお願いね、パパ

男：おう！……にしてもこいつ、ホントに重たくなったな

女：だってもう5歳だもの。来年はピカピカの一年生

男：…早いな

女：うん、あっという間

男：ついこの間つかまり立ち覚えたばかりじゃなかったっけ？

女：それ、いつの話よ。大輔、幼稚園で一番かけっこ早いのよ？

男：へぇ？俺の運動神経のおかげだな

女：言ってなさい

男：なんだよー俺の運動会での活躍覚えてないのかよ

女：記憶にございませーん

男：ひでー

女：……にしても…懐かしいな

男：何が？

女：ランドセルよ。こんなの持つの、20年ぶりよ

男：……背負ってみたら？

女：ええ！？嫌よ

男：なんで

女：なんでって…恥ずかしいじゃない！

男：まだ似合うと思うぞ

女：なわけないでしょう！…そんなこと言うなら、あなたが背負ってみたら？

男：俺はほら、大事な大事な息子背負ってるから無理ー

女：家に帰ったら試してみる？

男：大輔起きた後だと「やめろーっ」って騒ぎそうだけどいいの？

女：んもう！ほんとに昔から口ばっかり達者なんだから！

男：だろ？

女：ったく………ねえ、あなた覚えてる？

男：何を？

女：電信柱じゃんけん

男：…ああ、あれか

女：次の電信柱まで、じゃんけん負けた子がみんなのランドセル背負ってたよね

男：やってたなぁ

女：あなた…じゃんけん弱かったよねぇ

男：そうだっけ？

女：そうよ！私に勝てたことなかったじゃない。５人くらいでやった時、あなたランドセルに埋もれてたわよ

男：記憶にございませーん

女：オウム返し～…ねえ、久しぶりにしてみる？じゃんけん

男：え？

女：いくよ～じゃーんけーん…ポイッ

男：ん

女：……あれ

男：俺の勝ちだな

女：……どうして？あなたいっつもパーばっかり出してたじゃない

男：そうだっけ？

女：そうよ！だから私いっつもチョキであなたに勝って…ランドセル預けて

男：ほほう？

女：……もしかして、わざと負けてたの？

男：…さぁ？どうでしょう？

女：あなたのそういうとこ、ちょっとムカつくんだけど

男：いいだろ。…好きな子には意地悪したいし…優しくしたいんだから

女：……ねぇ。いつから私のこと好きだったの？

男：…その質問何回目？高校生からずっとしてるよな

女：だっていっつもはぐらかすんだもん

男：そういう理恵ちゃんは、いつから俺のこと好きだったの？

女：ちょ！…名前呼びはずるいわよ！

男：ほら、そっちだってはぐらかす

女：はぐらかしたわけじゃ…

男：…なあ

女：…何？

男：……大輔が言ってたんだけどさ

女：うん

男：……こいつ、妹が欲しいんだってさ

女：…へぇ

男：…仕事落ち着いたら…頑張っちゃう？

女：…もう少し帰宅の早い会社に転職しない？

男：この繁忙期乗り切ってもまだ変わらなかったら上に直談判してみる

女：そうして。あなた、最近睡眠時間短すぎて心配なんだから

男：ごめん

女：大輔、とっても寂しそうなのよ？

男：そうだな

女：…私だって…寂しいんだから

男：……ごめん

女：大輔さ…

男：うん？

女：弟になっても喜んでくれると思う？

男：…理恵ちゃんに似て優しい子だから、大丈夫だと思うよ

女：…翔馬くんほどじゃないでーす

男：あ、名前呼び

女：お互い様でーす

男：…仕事落ち着くまで、もうちょっとだけ待っててね

女：無理しないでね

男：うん。……来週の休みは勉強机、見に行こうね

女：ふふっ。約束ね

男：ああ、約束