寝る前のお風呂とトイレ

エミューナはベッドルームを見遣る。

「そろそろ寝ましょう…。明日は早く起きますよね?」

「ええ。」

アンゼは何か考え事をしているようで、返事の続きはない。エミューナは気になっていることを尋ねることにした。

「…お姉様。」

「…?」

「ここに泊まる時に使った偽名にはどういう意味があるのですか?お姉様が『アンジェリカ』でわたくしは『エミリオ』ですが…」

「ああ、私が好きな漫画に出てくるキャラクターで、似た名前のを探しただけよ。…ごめん、『エミリオ』は男の子だわ。」

「あと…、寝る前のお風呂とトイレは…」

「ファンタジーの世界でそれは禁句よ。」

「…マップチップが無かったんですか?」

「深く考えてはいけません。さっさと寝なさい。」

「すいません…。」

アンゼがエミューナを諭し、二人はそれぞれベッドに入った。


「どうして?どうしていけないのですか?」

エミューナがアンゼに反抗する。聞き分けのない子だ。

「無いものは無いの!我慢しなさい!平安時代の人はお風呂なんてほとんど入ってなかったのよ!?」

あれ?何でこんなことで口喧嘩になってるんだっけ。

「でも…由美かおるさんは毎週のように入っていたじゃありませんか!」

「水戸黄門かよ!あれは江戸時代よ!」

ていうかネタが古いのよ!十代のする話じゃないわよ!

「…何言ってるんですか?収録したのは平成に決まっています。」

「現実に話を戻してはいけません!もういいわ、お風呂とトイレから離れなさい!」

「でも…、夫が仕事から帰ってきた時に困ります!」

「…?」

夫?エミューナに?フィーアールのことか??

「お風呂にする?トイレにする?それともわ・た・く・し?って」

「トイレじゃないわよ、ご飯よ!!」

「君にするよ。」

謎のおっさん登場。ツッコミが追いつかない。

「あんたは誰よ!」

「ハハハ、まだ子供が起きてるじゃないか。お楽しみにはちょっと早いぞ。」

「勝手に話進めないでよ!しかも子持ち!?」

むしろこのポジションは私が子供!?

「♪困っちゃうな~、妻に迫られて。困っちゃうな~、銭湯流行らない~」

「訳分からないわよ!しかも迫ってないし!妻でさえないから!!」

エミューナが変なおっさんに取られるのはゴメンだわ!

「いや、俺風呂屋だから。」

おっさん、急に深刻な顔。世知辛い世の中ね…

「って聞いてないわよ!」

「もうやめてください!さっきから黙って見ていれば下ネタばっかり!」

エミューナが心底嫌そうに首を振る。

「下ネタかなぁ!?」

この子純真過ぎて大丈夫かなぁ!?

「そうだな、そろそろけじめをつけないと。遊びの時間はおしまいだ。」

おっさんがエミューナの方を見て頷く。

「話振ってきたのあんたでしょう!」

「続きは今夜寝室でゆっくり聞くよ。」

「だから夫婦じゃないから!」

「お姉様のヘンタイ!!」

エミューナが言い捨てて部屋を出ていく。

「私は関係ないから!!」

「待ってくれ!外で家庭を作った僕が悪かった。だから考え直してくれ~!!」

追いかけるおっさん。

「しかも不倫の家庭だったの?!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る