お遊戯会とおままごと 4人用台本

ちぃねぇ

第1話 お遊戯会とおままごと

0:幼稚園にて


先生:はいみんなー!今日は、この間話した通り、再来週のお遊戯会の演目を決めたいと思いまーす。みんなはどんな劇がやりたいかな~?

美琴:げきぃ~?

先生:そう、えんげき。みんなお遊戯上手にできるかな?

裕香:ふん!そんな子供だまし、私に通用すると思ってるの?私が望めばこの世界など、簡単に木っ端微塵なのよ!?

先生:裕香ちゃーん、早すぎる中二病しまっておいてねー

美琴:せんせー!美琴、お姫様やりたーい!

先生:あら可愛いわね

美琴:お姫様になって~毎日家来を雑に扱って~高級スイーツ食べまくって~10人くらいのイケメン王子をはべらせるの~!

先生:その王国、暮らしたくないわね

健太:せんせ、せんせ

先生:なぁに?健太くん

健太:ぼ、ぼく、ものがたり、書いてきた

先生:えぇ!?お話作ってきてくれたの?

健太:うん!読んでくれる・・・?

先生:もちろん!

健太:はい、じゃあこれ!

先生:え?ルーズリーフ…3冊?え、ええと

健太:読んで読んで!

先生:う、うん。えっと・・・眠らぬ街のピンク色のネオン。今日も一夜の夢に縋る男と女が腕を組みながら静かに部屋に入っていく

先生:ドアの閉まるのが先か、女のバッグが落ちるのが先か、男は性急に女の唇を・・・って、ちょ、健太くん!?

健太:あ!モデルはね~僕のパパと美琴ちゃんのママ!

先生:えええええ!?

美琴:ママったら、健太くんのパパに会うといつも「お外に行ってなさい」って追い出すんだよ~?ひどくなーい?

先生:どうしよう、どこから突っ込めば

裕香:大人って汚いわよね。そんな大人になる前に、このあたしがあなたの穢れた魂を浄化してあげる

先生:裕香ちゃんはちょっとお口チャックね

健太:僕のお話、おもしろくない・・・?

先生:えっと、正直物凄く続きが気になるけど、ちょっとお遊戯会向きじゃないかな~?ほら、長いし

健太:そっかぁ・・・上中下巻に分かれちゃったからなあ

先生:どんな心境で書き上げたのかな?あとでお話聞かせてくれるかな?

美琴:美琴、お姫様がいいーー!

先生:そうね、お姫様が一番まともね!じゃ、じゃあ・・・シンデレラとかどうかしら

美琴:はぁ?先生、夢見過ぎでしょ

先生:え?

美琴:いじめられてたら魔法使いが助けてくれる、可愛く変身させてくれて、舞踏会に連れてってくれて、そこにイケメンの王子がいる

健太:しかも一目惚れされて、こけないようにさり気なく靴を置いて帰れる、かつ、靴は魔法の解ける12時を過ぎても残ったまま

裕香:王子はただ一度踊っただけのシンデレラを探して国中を探し回り、とうとうシンデレラを見つけ、結婚を申し込む

美琴:せんせ、こんなに都合のいい話があると思う?

先生:あってもいいじゃない!作り話なんだから!

健太:先生、この世は、そんなに甘くないよ・・・?

美琴:そんな夢ばっか見てるから、未だに彼ピッピの一人もいないのよ!

先生:なっ!?

裕香:逃れられぬ宿命にあらがうのもまた一興。しかし、運命(さだめ)の前に一匹のメス豚など塵に等しき存在

先生:裕香ちゃんそれもう中二病じゃなくてただディスってるだけだからね!?

美琴:あーあ。先生の王子さまはいつ現れるのかしらね~?

健太:先生、僕、文章の中でなら書いてあげられるよ?どんな人がいい?

先生:要らない!要らないから!先生まだ3次元に夢持ってるから!

健太:仕方ないなぁ・・・じゃあ、あと15年待てる?大きくなったら僕、もらってあげてもいいよ?

先生:大丈夫です!御心配には及びませんから!

美琴:あれ、健太くん大きくなったら美琴と結婚するって言ったじゃん!こんなメス豚に乗り換えるの!?

先生:メス豚って言わないでぇ!

健太:だって、美琴ちゃんと結婚しちゃうとパパとママとママとパパがややこしくなるよぉ・・・?

先生:ほんとだね!心底ややこしいね!

美琴:そしたら美琴のパパと健太くんのママも愛し合っちゃえばいいのよ!ラブイコールピースだよ!

先生:ピースできるかなぁ!?平和来るかなあ!?

裕香:ふっ。いざとなればこの私の力ですべての大地を無に帰すのみ

先生:もうやだ!先生辞めるーーー!!!


0:数日後。


美琴:これ、書いてちょうだい

健太:これ…離婚届じゃないかっ

美琴:ええ

健太:ええって…お前、これがどういう紙かわかって出しているのか?

美琴:わかっているわ。…あなたとはもうやっていけないの

健太:理由はなんだ

美琴:あなたにはうんざりなのよ。家事も育児も私に押し付けて…もう沢山!子供は私が育ててあげるから、あなたは養育費と慰謝料を払ってこの家を出て行ってちょうだい

健太:…慰謝料だと?

美琴:ええ、そうよ。今まで私を傷つけた分の慰謝料、たっぷり支払ってもらうから!

健太:…慰謝料を払うのはお前の方だろ

美琴:なんですって?

健太:なにが家事育児の押し付けだ。お前がよその男に本気になっただけだろうが

美琴:なっ…

健太:俺が知らないとでも思ったのか?お前が幼稚園の保護者と浮気していることなんて、とうに知っていたさ

美琴:な、何言って

健太:(電話する振り)「あ、もしもし…すみません先生、こんな夕飯時に。実は妻に離婚を切り出されていまして…ええ、ええ。…あ、そうですか、それではお願いできますか?…はい、お待ちしております」

美琴:ちょっと!あなたどこに電話してるのよ!

健太:…今にわかるさ

裕香:ピンポーン

健太:お、早いな

美琴:は?こんな時間に誰

裕香:ごめんください

健太:お待ちしておりました、先生

美琴:は?先生?…あんた一体誰を呼んだのよ!

健太:弁護士だよ

美琴:べ…弁護士?

裕香:…初めまして、わたくし離婚を専門に扱う弁護士です。たまたま近所の魔界を散歩しておりましたので

美琴:(素に戻って)…ちょっと裕香ちゃん?近所に魔界はないよっ!そのよくわからない闇設定、今はしまってよ!

裕香:ふっ…我をままごとなどというくだらぬ遊戯に付き合わせたのだから、多少のアドリブは許容すべきだと思わぬか?

健太:というか、どうして弁護士だけ出てきたの?

美琴:そうよ!…先生?ちゃんと探偵役で出て来てくれないと困るわ!浮気の証拠をバーンと提示してくれなきゃ!

先生:ねぇ…どうしてこんな題材でままごとしてるのぉ!?もっと普通の題材で遊ぼうよ!

健太:普通って……なに?

先生:えっ

健太:普通って…なぁに?

先生:だ、から…お父さん役とお母さん役がいて…

美琴:いたわ

先生:日常の何気ない一コマを切り取って…

健太:切り取ったよ?

先生:っ…!?そ、そもそもままごとって言うのは…

裕香:「ままごととは、幼児の遊びの一種。おままごとともいう。分類上はごっこ遊びの一種と考えられており、身の回り人間によって営まれる家庭を模(も)した遊びである」…ってウィキ先生に書いてあったぞ?

先生:裕香ちゃん!?調べたの?なぜに調べたの!?

裕香:人間の子供に擬態するには、人間の子供の遊戯にも精通しておかねばな

先生:それもう魔王の視点!裕香ちゃん謎の中二病がこじれにこじれて、もはやアイデンティティ崩壊してるよ!?

美琴:今、美琴のママとパパ、絶賛大修羅場なんだよねー

先生:えっ…それは…聞いてもいい話なのかしら…

美琴:ママったら、健太くんのパパとの浮気がバレた途端に「愛しているのはあなただけ」「遊びだったのよ」って泣き落とし作戦に切り替えてさーみっともないよね~

先生:みっともないとか言ってる場合!?想像以上にド修羅場!…え、大丈夫なの?家庭訪問とかしたほうがいいの!?

裕香:一介の幼稚園の教諭ごときが家庭訪問?おこがましいぞ、人間よ

先生:裕香ちゃんはちょっとホントに黙っててね!せめて設定作り込んで!

健太:おかげでうちのパパの浮気もママにバレて…

美琴:ママが「慰謝料代わりに払って」って健太くんのパパに泣きついちゃったからね~

先生:んんんーー!目も当てられないくらいド修羅場ーー!!こういうケースってどこに話せばいいの!?児童相談所とか!?

裕香:ほう?業務の一環で仕入れた情報を他人に流し守秘義務違反を犯すか…なかなか度胸がある人間よのぅ?

先生:裕香ちゃんお口チャック!せめて口調は統一して!…っていうか中二病はどこ行ったの!もはやただの物知りな5歳児!

健太:まあでも、まあるく収まると思うよ?

先生:どこが!?

美琴:だって、美琴のパパ…健太くんのママ見た途端「トゥンク…」って胸押さえてたもん

先生:えっ!?

健太:うちのママも美琴ちゃんパパ見て「しゅき…」って呟いてたし

先生:まさかの!?

美琴:だから~美琴のママと健太くんのパパ、美琴のパパと健太くんのママがくっついて、ラブイコールピースで収まるわよ!

先生:そんなことあるぅぅ!?「慰謝料もぎ取りチーム」と「もぎ取られチーム」に分かれると思うけどぉぉ!?

裕香:ふ…たかだか100年しか生きられない種族の「永遠の愛」の軽さよのぅ?

先生:だからもう裕香ちゃん何目線!?誰目線!?

健太:先生?大丈夫だよ、人生収まるところに収まるんだから

先生:健太くんは人生何週目!?あーもう!私にはムリっ!誰かこの子達を導いてー!!

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