昔日に君想う

ヒナセ

1 廃れた街

 20xx年3月x日 現在時刻17:30

 僕は27の年を迎えた。

 あれから10年、彼女との約束の日。僕は公園に来ていた。子供の笑い合う声はもう聞こえない。あの日の光景は面影を遺さず消えていった。変わらないことは、あの日と同じ匂い、そして空のみだ。僕はあの日と同じ場所、同じ時間に君と歌った歌を歌う。どれだけ歌おうと彼女に響くことはもう二度とない。


 子どもたちが笑い合う声、老婦人が談笑する声、夕食を作る音。他所と対して変わらないこの町が、僕は大好きだった。田舎とも都会とも言えない、でもなぜかホッとする場所だった。彼女とは幼馴染みで、しょっちゅう喧嘩をしていた。

「...た...光巧こうた!」

 ヒステリックさをかけ合わせたような声で僕の名前を叫ぶのは幼馴染みの李恋りこ。せっかく可愛い顔してるのに勿体なく思ってしまう。

「あんた今失礼なこと考えてたでしょ。遅刻しても知らないからね!光巧ママー!行ってきます!」

「ちょっ、置いていくなよ!母さん行ってきます!」

 足早に玄関から出ると思いっきり頭を引っ叩かれた。

「いった!?」

「遅い!早く行くよ。」

 鬼のような形相のはずだが、ポメラニアンが腹を立てているような顔に思わず吹き出してしまう。彼女は美しかった。どんな相手でも、すぐ友達になれて。彼氏もできていたことだろう。それでも僕と一緒にいる彼女に、僕はそっと優越感に浸ってしまう。

 学校生活は悪くはなかった。でも良くもなかった。僕はもちろん友達は多いが、何故かいじられ体質で、いつも疲れ果てていた。李恋はそんな僕を支えてくれる唯一の光だった。でも、そんな光はある日を迎えると同時に差さなくなってしまった。あれは、そう。10年前のことだった。

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