EPISODE 8

「…のに、ごめん」


「ん?、よく聞こえないなぁ。もっと大きな声で。せーのっ」


「…俺が創り出したのに、ごめん」



くずおれる俺を無言で見下ろすバク。



「創り出して…ごめん」


「ええぇ、それって酷くない?。傷つくなぁ。結構ひどいこと言ってるって、兄さんちゃんと自覚してる?」


「バク…」


「生み出されたらさ、もう元には戻れないんだよ。生み出したんなら幸せにするのが責任ってやつじゃないの?」



バクに刺されたナイフが腹を抉っていく。痛みはなかった。俺は完璧に創られた生き物だから。

 ただ、心が痛かった。

 力が入らず横倒しになった俺の隣に爆破寝転んだ。絵本でも読み聞かせるみたいに、わざとらしく抑揚をつけて話をするバクの横顔がだんだんと輪郭を失っていく。



「人間みんな記憶がなくなったらどうなると思う?。正解はね、記憶がなくなっても生に縋りつくんだよ。無様だね」



近場に落ちていた本を一ページ一ページ破る音が聞こえる。



「だからそれに便乗してっぽいことをしてみた。記憶のなくなった人間たちに夢を見せたんだ、食べるんじゃなくてね」



鼻歌を歌いながら破った紙を折っているように見えるけど、段々視野が狭くなってきていてよくわからない。



「そしたらね、みんな好んで眠るようになった。永眠ってわけじゃないけど、近い者を感じるよね。どんな夢を見てるんだろう、美味しいのかな」



話しながら舌なめずりをしたのがわかった。



「でね、そのまま現実に残された自分の身体が腐って死ぬその時まで、夢を現実だと思って生きるんだ。時々目覚める時を悪夢だと思い込んでね」



出来た、と言って折った紙を俺の手に握らせた。



「人間を…苦しめてはいけないよ」


「なんで?。僕はずっと苦しんで来た。兄さんのエゴで創られて、その上体も弱くて自由がない。それなのに本やピオニーの語る世界は僕の知らない輝いた世界だった。みんなだけずるいよ。今までみんなが幸せだった分、今度はb区が幸せになる番だ」



 意識も段々と朦朧としてきた。腹に突き刺さったナイフからイブ02の血が回って、もうじき血管が弾けそうだった。



「ごめんね兄さん、兄さんは不死身なのかと思ってたから遠慮なく刺しちゃったよ。だけど、先に僕を殺そうとしたのは兄さんだから文句は言えないよね」



もうバクに何を言われても同様しない自信があった。この先バクがどんなに暴走しても、酷いことをしても、自分がその分まで地獄で償う覚悟が出来ていた。



「でも兄さんが死んだらひとりぼっちになっちゃうな。それはちょっぴり悲しい」


「ごめん」


「謝らなくていいよ。孤独になる代わりに僕はこれから兄さんの記憶っていう極上の品を味わうし、これからは今までと違って自由で幸せな人生が待ってるから」



少しでも長く走馬灯を見ていよう。後でバクが記憶を食べた時に、少しでも長く思い出に浸れるように。



「ばいばい兄さん」


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