主従旅記
請太
主従旅記
序章
契約を交わした時、自分の没年を知った。
俺が死ぬ間際まで、この小さな魔物が離れず、傍にいる。それを一息に知った瞬間が、契約の成立だった。
それは一息に忘れたことでもあった。あとには
──サワタリにとっての主従契約の顛末とは、こういうものだった。
***
モモは大冒険を終えたのだった。
複雑怪奇な
この
夢にまでみた秘宝を、大事に握っていた。三つの指で掴んでいたそれを、かれの胸に押しつけて。
「おれを、あんたの従魔にしてくれないか?」
モモはそう云った──つもりだった。だが、口から溢れてきたのは、言葉でなく血だった。艱苦の大冒険で、精も根も尽き果て、モモの体はぼろぼろだった。腹の中が破れてしまっているらしい、口から出る血が止まらず、それがかれの服を汚した。モモは骨の剥きだしになった指をまるめ、汚したところを拭く。だけれどまた血を吐く。汚す。拭いても拭いても取れなくて、泣きそうになる。
「俺にはおまえの言葉が聞こえない」
服がいくら汚れても、かれはモモを抱いて落とさない。その胸に、ぐいぐいと珠を押しつける。
「これを使えと云っているのか? 回復アイテムか……見たことがないが──まあ、俺はものを知らないからな」
ちがう。従魔の珠だ、と云おうとしたが、また吐血で言葉にならない。
「もう喋るな。おまえの口から出ているのは血で、声じゃない」
おれの血で汚れたかれは、それをいっこう気にする様子はなく。僅かに首をかたむけると、腕の中のモモを見る。
「綺麗なものだな」
おれを、あんたの従魔にしてくれ。云いたかった。云えなかった。モモの、血まみれの口はふさがれていた。もう喋るな、と繰りかえすかれの頬に、頬をすりよせる。
とたん、珠がうつくしいブルーに輝きはじめた。やがて珠は光りそのものになる。光りは綺麗に半分に割れ、半分はモモに、もう半分はかれに降りそそぐ。
そして、光りが一つ残らずモモとかれのなかに融けた時──ふたりの間に従魔の契約が結ばれたのだ。
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