2年 第1学期 4週目

 

 10月1日


 朝5時半 起床


「眠い」


 だが、林口にいると渋滞に確実に引っかかるので、早く出た方が身のためだ。

 学校へ行ったはいいが、英語は何と録音……何の録音って?台本渡されてそれ読むんだけどそれの録音、私の英語日本人ぽい発音だねって言われた。日本人だもん英語出来たらアメリカ行ってるし……しかも日本でこうやって声に出して英語ほぼしない単語と文法をひたすら暗記なんだよ。発音が奇麗になるわけがない。


 統計学の授業は老師Lǎoshīがとても気にかけてくれる。ことあるごとに「今の分ったかい?」とか「ここはこうした方が良いんだよ」とか分かりやすく言い直してくれるのが有難いのだが、そのたびにクラスから生暖かい視線を貰う。気にしたら負けなので、スルーしているが気まずいんだよ


 どっと疲れた後、何もなければ基本的には帰っていい時間が月曜日の8時間目にあるのだが、先週の会議とかで聞いた話をとりあえず簡単に大事な事だけクラスに伝える為時間を少し貰い、これで終わりと思ったら志豪Zhì háoが突然「提案があります」と言い出した。私は何も知らないので、そのまま席に戻るのだが、それとは入れ替えで、夢玲Mèng língが呼ばれて前に出た。


我們Wǒmen要不要yào bùyào一起去yīqǐ qù畢業bìyè旅行lǚxíng?【みんなで卒業旅行行きませんか?】」


 諦めてなかったんかい~しかも夢玲Mèng líng巻き込んでるし、提案される内容見てクラスがざわついていく、候補がフランスに青島に石垣島にタイ……全部国外……本当に人の話を聞かないなぁと思ったのはさておき、隣に座っていた安麗Ān lìが私の肩を叩いて自身のノートを指し示す。内容は、「天野今の話聞いてた?」である。私はその下に「この間の会議で、国外はお金のこともあるから辞めろって言った」と箇条書きで書けば、「私はもし国外行くなら少人数が良い」と書くので頷いて同意する。今現在クラスには、台湾人2名休学したのと先輩が一人休学から復帰したので、全部で51名大所帯だ。全員の意見が通るわけないし、基本別行動になるであろう。案の定提案が終わり解散となった時に、数名先ほどの安麗Ān lìと同じ質問をしてくる。


 何故私に聞く。志豪Zhì háo本人に聞け私は保護者ではないと言いたいのだが、聞きに来た人間は皆絶対参加じゃないよね?と不安そうな顔をしている。金銭的に厳しいと小声で言っている。だから私は強制じゃないよ提案だって、私も不参加だし……と先に言った。ノリで行こう~ってなったら断りづらいもんね。大丈夫私は味方だ。旅行は気の合う子たちとゆっくり行きたい派なのもあるが……


 そんなこんなで今日一日は精神すり減らす日となった。



 10月2日


 今日はこの間書いたメモを頼りに学校一周した。お手紙配達のお仕事だね。学校に中正紀念堂と同じ名前の棟があるんだけど、入り口が凄く小さくて、薄暗い建物なんだけど……6階に用があるからエレベーター乗るでしょ?エレベーターが開くのまでは普通なんだよ。扉が開いて目の前に飛び込んできたのが大きな像しかも非常用のランプの下にあるせいで、怖い。またお手紙持っていく場所がその奥の入り組んだところで、しっかりとお仕事して、またエレベーターホールに戻ったのだが後ろには緑のランプに照らされた像――


(無理、ムリ薄暗さが微妙に怖い……)


 私はホラーとかそういった類が凄く苦手なんだよ。何もないけど雰囲気が怖すぎる。エレベーター遅い!早く来て~なんてどうでもいい事ずっと考え、エレベーターのドアが開くと同時に滑り込み、足早に建物を後にした。


 手紙配り終わり、老師Lǎoshīの机周りを掃除した後、「今は何もないから勉強してていいよ」と言われたので、空いている椅子に座り、スケジュール帳を開けた。


「あ!来週発表だ。本今誰のとこだろう?」


 来週は、各グループ老師Lǎoshīの指定した本を読んで、その内容をプレゼンするんだけど、夢玲Mèng língが一番初めに持っててこの間志豪Zhì háoに手渡しているのを見たのが最後なので、後で彼に聞こうと頭の片隅に入れておく


「明日会計小テストだから先週までの分の復習しないと」


 早速ノートを開いて、問題を再度解いてみる。間違えたところは後で安麗Ān lìに確認だ。


志豪Zhì háo下禮拜Xià lǐbài報告的bàogào de書在shū zài誰的shuí dì地方呢dìfāngne?【志豪Zhì háo来週プレゼンする本って今誰の所?】」

我還沒Wǒháiméikàn所以在suǒyǐ zài我這裡wǒ zhèlǐ【僕まだ読んでなくて、僕の所だよ】」

這個禮拜Zhègelǐbài給我gěi wǒ我需要wǒ xūyào一些yīxiē 時間讀shíjiān dú【今週中に渡してね。私読むのに時間かかるから】」

好喔Hǎo ō【分かった】」


 笑顔で返事をくれているのだが、若干不安な気持ちになるのは何故だろう……


 10月3日


 今日は雨なので、地下に地下にある卓球場で体育をすることになったのだが……

 1時間経った頃、夢玲Mèng língに様子が若干おかしい


夢玲Mèng líng大丈夫?」

「息が苦しい……」


 荒い息で呼吸したいる彼女を見た私は、彼女を出入り口の階段付近の壁際に連れて行った後、急いで老師Lǎoshīの元へと駆け寄り事情を説明しつつ老師Lǎoshīと彼女の元へと戻った。


換氣Huànqì過度guòdù天野Tiānyě帶她去dài tā qù保健室bǎojiànshì【過呼吸だな。天野、彼女を保健室に連れて行ってくれ】」


 夢玲Mèng língを連れて保健室に行き事情を説明する。夢玲Mèng língが朝ごはんを食べていないと聞き、保健室の人にお金を渡され、これで果汁Guǒzhī【ジュース】買ってきてって頼まれたので、学食にあるコンビニまで急ぎ足で向かい。ジュースとお釣りを保健室の人に渡した後、授業の後迎えに来ると伝えて、私は再び授業に戻った。


 体育を終えて迎えに行ったはいいが、息がまだ若干早く、落ち着かないのかうろうろしている。保健室の人にとりあえず彼女を落ち着かせれば大丈夫と言われ、一緒に教室へと戻ったはいいが、クラスの普段なら気にならない音にも過剰反応しているので、彼女の手を握る。


「落ち着いて大丈夫だよ。深呼吸しようね」


 何度同じように声を掛けたか分からない。授業に来た老師Lǎoshīにも事情を説明し、彼女の背をあやすように一定のリズムで叩きながら授業を受けた。

 過呼吸の人がいたらとにかく落ち着かせる事が大事。周りが慌てると更にパニック状態に陥るからね。


「お母さんありがとう」

「誰がお母さんよ。自分より年上の子なんて産んだ覚えがないわ」


 夢玲Mèng língが冗談を言えるようになったのを見て、落ち着いたのだと悟る。


「ほらお昼食べに行くよ!今日はお腹すいてないは聞かないよ。少しは食べて」


 無理やり食堂へと連行し一緒に食事をした後、教室へ急いで戻り小テストの準備をする。


 どうだった?って――聞かないで欲しい……



 10月4日



「眠い」


 何故かすごく眠たい。ものすごく眠いのだが、今日は英語の教科書で中国語授業のマーケティング管理の授業だ。


「(駄目だ全然分からない)」


 予習も復習もしているが追い付いていないのが現状だ。ダブルで母国語じゃないので、やっぱり難しい。

 授業が終わった後、バイトへ行く前に


志豪Zhì háo書呢Shū ne?【志豪Zhì háo本は?】」

對不起Duìbùqǐ我忘了wǒ wàngle【ごめん忘れた】」


 へらっと笑いそう答える志豪Zhì háoに、私は唖然とした。彼は明日授業が無いので、今週合うのは今日が最後だ。しかもプレゼンは火曜日だ。月曜日に貰って一日で終えれるのだろうか……本を読んでその内容をまとめるんだけど、日本語の本ならまだしも中国語の本なので、読むのに絶対時間がかかる。出来ることなら時間はいくらでも欲しかったのだが、仕方がない。月曜日徹夜してでもやることが確定してしまった。



 10月5日


 昨日からの絶望的な気分を引きづりながら微積分を受け、林口に帰る前に、知り合いに会いに行く。


 同じ教会の人なのだが、台中の学校に通っているので、台北に戻ってくるタイミングで会う約束をしていたのだ。おすすめのケーキを買ってくれたので、台北駅2階のフードコートで飲み物を買い。食べながら近況を話す。


 彼女は日本語を話すことが出来ないので、中国語のみの会話なのだが、私が言えない言葉をかなり大回りでアバウトな言い方をしてもそれってこう言うんだよと教えてくれる。だから私はたまに彼女の事を「老師Lǎoshī」と呼んでいたりする。


 日本で何度か会ったことがあるので、昔話をしたり、楽しい時間を過ごせたのだった。



 10月6日


 教会に行って、集会してご飯食べて、集会してそのままお茶に誘われるいつものパターン


 果物をモグモグさせながら周りの人たちの会話を聞く、私は話すよりも聞いてることの方が多い。耳を慣らす意味でもとても有意義な時間で、美味しいお茶と果物とお菓子にを堪能しつつ。専門用語のない日常会話のオンパレードにほっこりした一日を過ごしたのだった。



 10月7日


 教会の知り合いが、點心Diǎnxīn【飲茶】食べに行こうと誘ってくれたので、教会の何人かの人たちと食事に行った。


 皆知ってる?小籠包あるでしょ?日本だとしょうろんぽうって発音してるけど、実際はXiǎo籠包lóng bāoって言うんだよ。カタカナにするとシャオロンバオ全然違う。道理で日本の観光客が偶に言ってるの聞くと店の人が首をかしげてるんだよね。日本語読みしたらダメってことね。


 小籠包しょうろんぽうXiǎo籠包lóng bāo

 焼売しゅうまい燒賣Shāomai

 包子パオズ包子Bāozi

 大根餅だいこんもち蘿蔔糕Luóbogāo


 書き出してみると結構違うなぁって思ったよ。


 お料理はどれも美味しかったよ。臺灣の人は普段から食べてるわけでもなくて、今日みたいにみんなで集まったり、家族や会社の集まりとかで、食べに来る人が多い。大皿とかをみんなで分けるスタイルだから點心Diǎnxīnをいくつか頼んで、お茶を飲みながら会話するって言う人が多かったりする。結構お年寄りも多いかな。


 土日はほぼ食べてお話して、家に帰って勉強して過ごした。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る