第25話 五月一日は恋がはじまる日(コラボシリーズ)

 女性の美容と健康、そして快適な日々のために生まれた店のエルシーラブコスメティックを運営する株式会社ナチュラルプランツが制定。

 女性の恋を応援している同社が、男子の立身出世を願う「鯉のぼり」を女性向けにアレンジした「恋のぼり」で恋の成就を願うのが目的。

 日付は五と一で「恋」と読む語呂合わせから。



「ゴールデンウィークの三日から五日は部活が休みだから、この前カラオケに行ったメンバーで遊園地にでも行かないか?」


 俺は高校三年生の今里健いまざとたける。俺は今、部活仲間の伊藤康介と門村大地かどむらだいちと一緒に、部活が終わって学校から帰っている。

 この前のカラオケとは、康介とその彼女の霧島凛子さんが付き合って一か月になるので、お祝いで開催したものだ。メンバーはここにいる三人と、女の子は霧島さんとその友達の桜田依里さんと高花麗美さんの六人だ。


「俺は良いよ、暇だし」

「じゃあ、康介は?」


 大地が良いと言ってくれたので、康介にも聞いた。


「俺も良いけど、女の子たちの予定が空いてるかは分からないぞ」


 康介の言うことはもっともだ。もうあと数日しかない状況で女の子たちの予定は分からない。


「だいたいどうしてこんな直前になって言ってくるんだよ」


 大地が少し咎めるように聞いて来る。部活では大地がキャッチャーで俺はピッチャー。試合中でも俺が弱気になると、大地はいつもこんな感じで叱咤激励してくる。

 俺は理由を言うべきか迷った。でも、親友の二人に隠し事をするのは悪いと思い、打ち明けることにした。


「実は高花さんのことを好きになったんだ」

「ええっ!」


 俺の告白に、二人は同時に声を上げた。


「高花さんって、同じクラスになるまでは凄くキツイ女のイメージが有ったけど、康介達の交際一か月記念でカラオケ行った時とか、話をしたら案外明るくて良い娘だなって思ってさ。元々凄い綺麗な娘だろ? あれで性格が良ければ、すぐに彼氏が出来ると思ったんだ。そうしたら、凄く焦って、居ても立っても居られなくなってさ。ああ、俺は高花さんのことを好きになったんだって分かったんだよ」


 俺は二人に正直な気持ちを話した。


「俺は二年の時に同じクラスだったけど、前は性格キツかったよ。最近じゃないかな。きっと霧島さんたちと仲良くなって、性格が明るくなったんだよ」

「そうなのか。あんなに明るくなったのは最近なんだな……」


 二年の時は高花さんのことを、噂でしか聞いたこと無かったから良く知らなかったのだ。


「よし、分かった。俺も健を応援するよ。実はゴールデンウィークに霧島とデートする予定だったんだけど、その日に行けるように話してみる」

「ありがたいけど、本当に良いのか? 二人っきりのデートが潰れちゃうのに」


 俺は嬉しかったが、康介に悪い気がした。


「それは良いよ。交際一か月記念やってもらったからな。実はその日なら、高花さんと桜田さんも大丈夫だと思うんだ。二人で遊びに行くらしいから」

「ホントか? それなら行けそうだな!」


 俺は康介の言葉を聞いて喜んだ。


「健に好きな娘出来たんなら、俺も部活の女房役として協力するか。康介キャプテンも乗り気だしな」

「二人ともありがとう」


 大地まで協力してくれるなんて、二人に打ち明けて良かった。


「あっ、お前が高花さんが好きだってことを、霧島と桜田さんには言うぞ。高花さん本人には絶対に言わないように釘をさしておくから」

「ええっ……」

「だってみんなで協力した方が上手く行くって」


 確かに康介の言う通りだと思うが、女の子達にまで知られるのは、振られた時のことを思うと躊躇してしまう。


「そうだな。お願いします」


 でも、康介は好意で言ってくれているのだし、俺が断るのは違うと思った。

 その後、康介の言った通り、デートの予定だった日に、六人で遊園地に行くことになった。



 遊園地に行く当日になった。昨晩は緊張してなかなか寝付けず、寝不足気味だ。持っている服の中で、一番お洒落に見える勝負服を着て家を出た。

 駅で待ち合わせをして、そこから電車で遊園地に向かう。俺が十分前に駅に着くと、まだ誰も居なかった。


「おはよう。今里君が一番乗りなんだね」


 五分前になり、最初に現れたのは、なんと高花さんだった。


「お、おはよう。まだ誰も来てないね」


 いきなり二人っきりの大チャンス。俺は緊張して声が上ずる。

 しかし、初めて見た高花さんの私服は凄くお洒落でカッコイイ。今日は遊園地なので動きやすいパンツ姿なのだが、それが凄く大人っぽく見えて、隣に並んだ俺の服装は子供っぽく見えないか不安になった。


「今日は久しぶりの遊園地だから楽しみ」

「俺も小学校以来かな」

「私、友達と遊園地は初めてなのよ」

「そうなんだ。俺もそう。家族としか行ったことなくて」

「私も家族とだけ。だから遊園地の話を聞いて、本当に楽しみにしてたんだ」

「うん、思いっ切り楽しもうね」


 なんだか凄く気楽に話せる。今から遊園地に行くのでテンションが上がっているからだろうか。

 それに、高花さんは黙っていると、大人っぽい美人なのに、こうして話していると、高校生らしくて凄く可愛く見える。今のこの瞬間だけで倍ぐらい好きになった。もうここで今すぐ告白したいぐらいだ。


「おはよう!」


 約束の時間を少し過ぎたぐらいになって、みんなが同時にやって来た。ああそうか。みんな俺と高花さんを二人っきりにしてくれる為に少し遅れて来てくれたんだ。


「今日は応援するから頑張ってね」


 みんなで駅のホームに向かう途中、霧島さんが近付いて来て、小声でそう言ってくれた。高花さんの友達がそう言ってくれたのが、凄く心強くて、康介たちに話して良かったと思った。

 電車の中では、みんなこれから向かう遊園地で何に乗るか、楽しそうに相談した。

 ゴールデンウイーク中の遊園地は家族連れやカップルでにぎわっていた。俺達のような学生グループも居て、共通するのはみんなの笑顔だ。

 人は多いのだが、その賑やかさが遊園地の雰囲気を盛り上げていて、テンションが上がった。


「最初はメリーゴーランドに乗ろうよ!」


 桜田さんが入場してすぐの場所にあるメリーゴーランドを指さして言う。電車の中で始めは大人しい乗り物からにしようと相談していたので、異論もなくメリーゴーランドの列に並んだ。

 乗る前は子供用かと思って恥かしい気持ちもあったけど、動き出すと結構スピードもあって楽しかった。

 その後も大人し目の乗り物から順次乗って行った。


「じゃあそろそろジェットコースターに乗ろうか」


 康介の提案にも異論はなく、俺達はジェットコースターの列に並んだ。


「二人ずつ乗るんだし、男女で乗ろうか」


 康介がそう言って、霧島さんと一緒に列に並ぶ。


「じゃあ、私は大地君と乗るー」


 桜田さんがそう言って、大地と並んだので、自然と俺は高花さんと並んだ。

 ありがとう桜田さん、グッジョブ! 俺は心の中でお礼を言った。


「高花さんはジェットコースターは大丈夫なの?」


 女の子なら苦手かなと思って聞いてみた。


「いや、久しぶりだからどうだったか覚えて無いけど、少し緊張する」

「大丈夫、怖かったら俺に捕まってくれて良いから」


 高花さんから笑顔が無くなったので、俺は心配になって、そう言った。

 だが、実際に乗ってみると……。


「ウワー楽しーい!」


 高花さんは上機嫌で叫んでいたが、逆に俺は言葉も出ないくらい怖くて、バーを力いっぱい掴み続けていた。


「今里君、大丈夫?」

「だ、大丈夫。思ってたよりスピードあったね」


 俺は高花さんに心配されて、無理やり笑顔を作るのがやっとだった。


「次はお化け屋敷に行こうよ!」


 桜田さんがお化け屋敷の建物を指さす。


「ええっ……お化け屋敷に行くの……」


 霧島さんが心底嫌そうな顔をする。


「大丈夫、俺が横に居るから」

「そっか、じゃあ大丈夫ね」


 康介が励ますと、霧島さんは途端に笑顔になる。もうすっかり恋人同士が板に付いていて羨ましい。

 またジェットコースターと同じ組み合わせで列に並んだ。

 高花さんは俺と一緒に乗るのが嫌じゃ無いんだろうか?

 無理してないかと、チラリと顔を窺う。


「ん?」


 高花さんが俺の視線に気付いて、笑顔を浮かべる。萌え死ぬくらいに可愛い。


「あっ、いや、高花さんはお化け屋敷大丈夫なのかなって」

「大丈夫だと思うよ。前に依里の家で幽霊さんに会ったから」

「ええっ、幽霊に?」


 高花さんはその時の話を聞かせてくれた。


「そんな不思議なことがあったんだ」

「そう。だから大丈夫だと思うよ」


 でも、一緒に居た霧島さんはお化け屋敷を怖がってたのにな。

 四人乗りカートに順番に乗り込んだ。前の四人が一つのカートに乗ったので、俺達は後から来たカートの前の席に座った。

 本当は怖がって俺にしがみついて来てくれる展開を期待してたけど、それは無さそうか。


「な、なにこれ……」


 カートが動き出し、暗闇の中に入って行った途端に、高花さんが震える声で呟いた。


「えっ、どうしたの?」


 目の前では血みどろの男の人形がカートの前まで飛び出して来た。


「きゃー!」


 高花さんは悲鳴を上げて俺にしがみつく。


「大丈夫! 俺が付いてるよ!」


 凄く美味しい展開だった。その後も、高花さんは殆ど前を見ずに、俺にしがみついていた。

 その後も俺達はいろいろなアトラクションに乗って楽しんだ。

 今日はゴールデンウィークの特別企画として、開園時間を延長して花火大会が開催される。実は事前に康介たちと打ち合わせしていて、この花火大会の間は俺と高花さんを二人っきりにしてくれる計画があるのだ。俺はその時に、高花さんに告白するつもりでいた。

 いよいよ花火大会の時間が近付いて来て、康介たちはトイレやジュースを買いに行くなどと言って、俺と高花さんをベンチに残して離れて行った。

 みんながくれたこのチャンスを逃してはいけない。俺は告白する決心を固めて、高花さんの顔を見る。


「あ、あの……」

「もしかして、今里君、私に告白してくれるのかな?」

「えっ、そ、そうだけど……」


 いきなりストレートに聞かれて、思わず素直に認めてしまった。


「実は遊園地に遊びに行くのが決まってから、凛子と依里が凄く今里君を推してきたのよ。ちょっと変だなって思ってたら、今日は今日で、ずっと二人っきりにしようとしてたから、これはもしかしてって思ってね」


 バ、バレてたんだ。凄く恥ずかしい。でも、そんなことより、こんな話を告白前に言われるってことは、絶対に断られる流れだろう。


「悪いけど、今日の告白は少し待ってくれないかな」


 やっぱり! 俺は絶望で目の前が暗くなる気がした。


「そ、そりゃあ、迷惑だよね……ごめんね。気を遣わせて……」

「あっ、ごめん、迷惑だなんて全然思って無いの。むしろ嬉しいくらいで……」

「えっ、嬉しいぐらい……」


 どういうことだろうか?


「私、人付き合いが苦手だったから、言葉選びが悪かったわ。ホントにごめんね」


 高花さんは申し訳なさそうな顔で謝る。


「私ね、凛子や依里と会うまでは、友達が全然いなかったの」

「えっ、そうなんだ」


 今の高花さんを見ていると、そんなことは想像出来ないので驚いた。


「引くよね。本当に馬鹿で失礼な、嫌な女だったわ」


 高花さんは自分のことを凄く落として話す。でも、昔のことだと思っているのか、曇りの無い笑顔だ。


「凛子や依里と友達になって、素直なあの子たちに接するうちに、自分の嫌な部分がドンドン剥がれて行く気がしてた。そんな二人が推してくるんだから、今里君は絶対に良い人だと思ってた。実際に今日は凄く楽しかったしね」


 高花さんは、そう言って笑ってくれた。


「それに伊藤君や門村君も今里君の為に協力してくれてるって、それだけ仲が良い友達ってことでしょ。今里君が良い人だから協力してくれるんだと思う」


 告白を断られるのかと思っていたけど、様子が違ってきた。


「本当はこの場で告白されて、OKすれば良いと思うんだけど、私は今まで告白されたことが無いから……。初めての告白は心から『はい』って言いたいなって思ってて……我儘言うけど、今はまだ友達以上恋人未満じゃダメかな」


 友達以上恋人未満!


「ホントにそれで良いの? 凄く嬉しいんだけど!」

「ホント? 良かったー」


 ホッとしたように笑う高花さんは今まで見た誰よりも可愛くて綺麗だった。

 と、その時、ドーンと花火が上がった。


「せっかくだから、一緒に花火を見ようか」


 高花さんが立ち上がって、手を差し出してくれた。


「そうだね」


 俺はその手を取り、手を繋ぎながら、一緒に花火を見続けた。でも、俺は花火より、高花さんの顔を見ている時間の方が長かったのだが。

 花火が終わり、俺達六人は約束していた場所に集まった。


「今から、私と大地君から重大発表があります!」


 桜田さんが俺達を前に、得意顔で宣言する。


「実は俺と依里ちゃんは付き合うことになりました!」

「ええっ!」


 桜田さんの横に並んだ大地が少し照れながら宣言すると、他の四人は驚いて同時に声を上げた。


「どうしてそうなったのよ?」


 霧島さんがみんなを代表して二人に訊ねる。


「今日大地君と一緒に遊んでいたら凄く楽しかったの。このまま大地君と付き合ったら楽しいだろうなって思って」

「俺もそう思ってて、凄く可愛い依里ちゃんと一緒に花火を見てたら、思わず告白してしまったんだ」

「私も凄く嬉しかったから、即OKよ!」


 あっけらかんと話す二人は、幸せそうな笑顔を浮かべている。


「おめでとう、依里!」

「ありがとう、麗美ちゃん!」


 高花さんに続いて、俺達も二人を祝福した。


「そう言えば、麗美ちゃんの方はどうだったの?」


 桜田さんがストレートに聞いてきた。


「うん、私達は焦らず行こうって感じよね」


 高花さんが俺に同意を求めて来る。


「そう、友達以上、恋人未満って感じで……」

「友達以上恋人未満!」


 四人が同時に声を上げる。


「良かったじゃない。麗美もおめでとう!」

「ありがとう」


 霧島さんが祝福してくれると、高花さんは照れながらお礼を言った。その顔がまた可愛い。

 他のみんなも祝福してくれて、俺と高花さんは実質恋人同士になったような感じになった。これから本当に恋人同士になれるように頑張ろう。

 今日のことは一生忘れないと思う。それほど幸せな一日だった。

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「今日は○○の日」伊藤家・Jkトリオのシリーズのみバージョン 滝田タイシン @seiginomikata

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