第14話 十二月二十三日はテレホンカードの日(伊藤家シリーズ)

 NTTが制定。

 一九八二(昭和五十七)年のこの日、電電公社(現在のNTT)が、東京・数寄屋橋公園にカード式公衆電話の一号機を設置した。



「何これ?」


 私が長男の康介と次男の俊哉の前に、一枚ずつのテレホンカードを置くと、二人は手に取り不思議そうな顔で訊ねてきた。


「それはテレホンカードと言って、公衆電話機で使う物なの」


 二人が手にしているテレホンカードは年末の片付けをしていて出てきたのだ。


「あなた達も知ってるでしょ? たまに見掛ける緑色の電話機。あれにこのカードを差し込めば電話出来るの。もし何か非常時に、スマホを失くしてたり充電が無かったりした時用に持ってなさい」

「ああ、そうか。見たことあるけど、使ったこと無いな」と康介。

「でもどうして、こんなカードが家にあったの?」

「お父さんは独身の頃、会社の寮に入ってたのよ。だから電話を外で掛けてて、よく使ってたから、それの余りだと思うよ」


 私は俊哉の質問に答えた。


「わざわざ外で誰に掛けてたんだろ?」

「彼女だよきっと」


 康介の疑問に俊哉が答える。この兄弟は、高校生の康介より中学生の俊也の方がマセているのだ。


「ええっ! お父さんに彼女? どんな人だったんだろう?」

「お母さんに決まってるでしょ。お父さんがそんなにモテると思ってるの?」


 私がそう答えると、二人して「そりゃそうだ」と笑う。


「あんた達も笑ってないで、早く電話出来る彼女作りなさいよ」


 私は二人を冷やかすように、そう言った。


「俺、もう彼女いるよ」


 私は冗談のつもりだったのに、俊哉がサラリと問題発言する。


「ええっ! お前彼女いるの!」


 私より康介の方が驚き、俊哉に食い付く。


「ど、どうやって出来たんだよ!」

「いや、俺から告ったの」


 康介の勢いに俊哉は若干引いている。

 普段から兄貴風吹かせていたのに、弟に先を越されて焦っているんだろう。

 何でも要領よくこなす俊哉に比べて、康介はのんびり屋で不器用だ。多分父親に似たのだろう。ただ、真面目な努力家なので心配はしていない。それも父親そっくりだから。


「明日は将司ともう一人の女の子と一緒に遊びに行く約束してるんだ」

「凄いね。クリスマスダブルデートじゃない」


 まあ、今時の中学生なら当たり前か。横を見ると康介の顔が赤くなっている。


「俺も電話してくる」

「ええっ!」


 康介の言葉に、私と俊也は同時に声を上げた。


「電話するって誰に?」

「気になっている子がいるんだ。明日クリスマスイブだから誘ってみる」


 明日クリスマスイブなのに今日誘うの? いくらなんでも無計画すぎるよ。

 私は心の中で突っ込んだが、言葉にはしなかった。せっかくやる気になっている康介に水を差すようなことをしたくなかったのだ。


「ちょっと部屋で電話掛けてくる」


 部屋に戻って行った康介を、私と俊也はポカンとして見送った。


「康ちゃん大丈夫かな」

「余計なこと言わないでよ。せっかく自分から行く気になってるんだから」

「言わないけど心配だな」


 弟に心配される康介が可哀想になってきた。でも頑張って! お母さんも応援してるよ。

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