第一部 第一章 彼の病状
彼は病室の窓をボーッと眺めている。冬の足音がコツコツと忍び寄る10月、枯れ葉が歩道を敷き詰めようとする時期だ。
(何時になったらこの収監所の様な所から出られるのか)
暇つぶしのB5サイズのノートパソコンで音楽を聞いている。それが彼の日課である。
《うつ病》それはもはや、このコンピュータが発展した現代に於いて、立派に市民権を持った症状となった。精神病と呼ばれる類の病は脳の疾患であり、特別な病気ではないという説も在るくらいで、うつ病は誰しも発症しうる病であるらしい。しかし彼の場合はその病歴が長すぎる。20年以上の付き合いだ。その為、働いては入退院を繰り返している。
発病のきっかけは何なのかは断定できていない。だが、先天的な要因が強いのではないかというのが医師の見解だ。彼自身もこれという原因がはっきりしない。強いていえば仕事上で行き詰まったことがあるくらいで、そんなことは仕事をしていれば誰しもがぶち当たる壁であり、その事によって急に症状が出たわけでもない。なので、彼も医師の見解の通り、発病の原因は先天性によるものということで落とし所を作っている。
彼のいる病棟はいわゆる『閉鎖病棟』と呼ばれるところで、家族も原則的に面会謝絶になっている。彼は然程病状が酷い訳では無いが、病歴が長いという事で便宜的な意味でこの病棟で暮らしている。
しかし、今回の入院は既に一年が過ぎようとしている。通常であれば2,3ヶ月もすれば退院出来るのが普通である。彼の場合はその約6倍近い。しかも今回は今までの最長記録を更新している。
彼の職業はIT企業のしがないプログラマー。聞こえはいいが、現代の土方と呼ばれる職種だ。このまま行くと入院費も馬鹿にはならない。いくら親元にいるとはいえ、余計な負担はかけられない。仕事も復職はおろか、生活さえもままならなくなる。彼の心中は焦燥感と不安が入り混じっていた。
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