第17話 泡盛
泡盛はインディカ米、いわゆるタイ米と黒麹で作る沖縄の焼酎だ。今回は適当な米焼酎がなかったので、こちらを代打とした。
インディカ米は粒が長い米で、日本で一般的なジャポニカ米と違って、炊いても粘りが少ないパラパラのご飯になる。
おにぎりは作れないが、チャーハンやパエリアに使うと美味しい。
香り米、ジャスミン米とも言われるように、タイ米には独特の香りがあり、酒の材料として使えば清酒とはまた違った香りが出てくる。
また、タイ米は粘りが少ないので、もろみもサラサラで作業がしやすく、麹が菌糸を伸ばしやすい性質があるなど、酒の原料として用いるのに都合がいい部分も持っている。
材料は違うが、泡盛も大まかな製法は他の焼酎と同じだ。麹を使って米のデンプンを糖化しつつ、酵母で発酵させてもろみを作り、それを蒸留する。
ただ、多くの焼酎はもろみを作る際に材料を2~3段階に分けて投入するのに対し、泡盛の場合は全材料を1回でまとめて投入し、2週間ほどかけてもろみを作る。
このスタイルは「全麹仕込み」と呼ばれ、泡盛の特徴の一つとなっている。
もう一つの大きな特徴は麹に黒麹を使う点。芋焼酎の項でも記したが、沖縄の泡盛は伝統的に黒麹を使って作られている。
沖縄の熱い環境下では、黒麴の高いクエン酸生成能力で雑菌の繁殖を抑えることが必要不可欠なのだ。
こうした経緯から、現代の政令および財務省令では「原材料は米麹(黒麹限定)と水だけで、単式蒸留器で蒸留して作るもの」だけが泡盛であると規定されている。
度数が60%以上にもなる「花酒」と呼ばれる物もあり、こちらに関しては酒税法の関係上「原料用アルコール」と表示されていたが、2020年の改正で泡盛と名乗ることができるようになっている。
実は原料の米は必ずしもタイ米でなくてもよく、ジャポニカ米で作られる泡盛もある。また、沖縄で作らなくても泡盛となるが、沖縄産でなければ「琉球泡盛」とは名乗れない。
泡盛と言えば有名なのが「
こうして長期間貯蔵されて熟成された物が古酒と呼ばれる。
ウイスキーなどと違うのが、貯蔵のために使う容器が樽ではなく
樽に貯蔵する酒の場合、樽の木の成分も酒の風味や色に影響を与えるが、甕なら酒の成分の化学変化だけで風味に変化が生じる。
陶器のように内部の酒に影響を与えない容器なら何でもいいので、現代ではステンレスタンクでの熟成も行われている。瓶で買った後にそのまま保存していたら、瓶の中で古酒になっていたということもあり得る。
現在の沖縄泡盛酒造組合における「泡盛の表示に関する公正競争規約」では、熟成年数が3年以上の物が古酒としての表示が許されている。
以前は3年以上の物が50%含まれていれば古酒の表記が出来たが、平成27年から現在のルールとなった。
7年や15年といった表記をする場合も、全量がそれだけの年数以上の熟成をしていないといけない決まりになっている。
いつ頃に泡盛が誕生したのかは不明だが、14世紀中ごろから15世紀前半にかけて、タイから原料のタイ米、貯蔵に使う甕、黒麹がもたらされたことで作られるようになったと言われる。
泡盛という名前は、蒸留した酒が受け壺に落ちた時に泡立つ様子から「泡を盛る」で泡盛となったとか。
江戸時代には薩摩藩を通じて幕府にも献上されており、元禄のころには「泡盛」として他の焼酎とは違う物として受け取られるようになったらしい。
琉球の品として有名な泡盛だが、そもそも原料のタイ米は輸入物なので貴重で、地理的・気候的要因から沖縄では米を作るのが大変だったので、泡盛の製造は琉球王朝の監督下にあった。
蒸留した後にも貯蔵も必要で、製造に結構な手間がかかる貴重品だった。そうしたわけで、庶民の間では黒糖やサツマイモを使って自宅で作る蒸留酒「イムゲー」の方が良く飲まれていたようだ。
明治時代になると酒税法が導入されて自家製の酒が造れなくなり、イムゲーは廃れて、泡盛の方が一般的になっていった。
だが、第二次世界大戦で沖縄がかなりの被害を受け、材料の米も不足して黒麹すらなくなってしまいかけたが、戦争の影響が比較的小さかった与那国島の醸造所の土壌から麹菌の回収に成功し、それで黒麹を復活させることができた。
アメリカによる統治の間にビールやウイスキーが流行ったこともあって、かつては数百もあった酒造も激減したが、本土復帰後に焼酎の技術を逆導入するなどして壊滅は免れて現代に至っている。
今のところ泡盛の蔵元は47だが、従業員が10人にも満たないところが多く、生き残りのために県外や海外への輸出を目指して工夫を凝らしているようだ。
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