02

ピピは大きくため息をつきながら、アグネスに説明をした。


ユナがユウキの娘であることや、間違って召喚してしまったことを話すと、アグネスはピピの体を手でがっしりとつかんで叫ぶ。


「どこをどうやって間違えたらそうなるんだ! ユウキは男でこの子は女の子だぞ!?」


「うーん。たぶんだけど、ユナとユウキの魔力の流れが似ていたからかな。ほら、血がつながってると代々似るものでしょ」


ピピは悪びれずに話を続けた。


ユナがユウキと同じ魔力を持っていた以外にも、十代の人間を召喚したのが原因だと。


そもそもユナのいた世界と、ピピたちがいる世界では時間の進み方が違うことを、このヒヨコは今さら思い出したようだった。


話を聞いて呆れているユナの目の前で、アグネスはピピをつかんだまま顔をしかめたままだ。


「そんなに怒らないでよ、アグネス。誰だってミスくらいするって。わたしのかわいさに免じて……ね」


ピピがウインクしながら微笑みを返すが、アグネスの顔は変わらない。


むしろ、さらに怒っているように見える。


「おまえのかわいさを加味しても許さん! わかってるのか!? また召喚術を使うには、数年は魔力をためなければいけないんだぞ!」


「え……それって、まさか……?」


ユナの表情が変わる。


彼女は話を聞いてわかった。


召喚するのに数年は魔力をためないといけないなら、元の世界に戻すためにも数年はかかってしまうと。


それとなくそのことを訊ねると、アグネスが言いづらそうに口を開く。


「ああ、おまえの言うとおりだ。召喚した者を戻すのにも、同じぶんだけの魔力がいる」


「じゃあ、帰れないんだ、あたし……」


うつむいたユナを見て、これにはさすがのピピも落ち込んでいた。


まさかこんなことになるとはと、頭を下げてしまっている。


照りつける太陽の下、岩だらけの荒野に風の音だけがひびいていた。


「こうなったら、この子をユウキの代わりに連れて行くぞ」


「それしかないかなぁ……」


アグネスとピピがなんの話をしているのかわからなかったユナは、彼女たちに訊ねた。


どうやらユウキを呼び出そうとしたのには、彼に手伝ってもらいたいことがあったようだ。


その手伝いをしてほしかったこととは――。


「実はね。ダンジョンにある宝石を回収するためなんだよ」


ピピは疲れた顔をして話し始めた。


なんでも現在こちらでは、世界中で異常現象が起こっていて、それがピピが言う宝石の影響によるものだそうだ。


その宝石は四つあり、それぞれ風、火、水、土の力を持っている。


ピピとアグネスは世界中を歩き回り、それら宝石の影響で異常現象が起こっていることを突き止めた。


そして、異常現象を止めるために宝石のあるダンジョンへ入ろうとしていたところ、かつて世界を救った勇者であるユウキに手伝ってもらおうとしていたのだ。


「ユウキはさよならするときに言ってくれたからね。おれの力が必要になったら、いつでも呼んでくれよって」


「よくわからんところは多かったが、まあ、頼りになる奴だった。だからまた力を借りようとしていたんだが……」


事情を聞いたユナは、自分には何もできないと思った。


それと同時に、父がこちらの世界で勇者として魔王を倒したということに驚きが隠せない。


いつもヘラヘラしていて、家にいても自分の部屋でゲームばかりしているイメージの父に、そんなことができるなんて想像もできない。


いや、それ以上にこれは夢ではないのか?


そうだ。


自分は図書室で借りていた本の続きを読もうとして、その後に眠ってしまった?


ちがうちがう。


きっとその前から夢だったのだ。


第一にいくらタブレットPCが流行っているからといっても、お昼休みの図書室を自分以外に誰も使わないなんてことはありえない。


でも、自分が知らなかっただけで、図書室の先生が事前にみんなに知らせていたら……。


ユナは表情は変えていなかったが、その内心は激しく混乱していた。


「事情はこれですべてになるが。ずいぶんと堂々としているな、ユウキの娘。顔色ひとつ変えん」


「ちょっとアグネス。この子にはユナって名前があるんだから、その呼び方はいくらなんでも酷いよ」


「それは失礼した。では、勇者の娘ユナよ。私たちと共にダンジョンへ入り、四つの宝石を回収するのに手を貸してくれ」


アグネスの言葉を聞いたユナは、理解ができなかった。


この人はどうして子どもである自分に、手伝わせようとしているのかと。


ユナはあまりファンタジーには詳しくはないが、ダンジョンというのはモンスターがいっぱいいる迷宮のことだろう。


他にもワナや危険な仕掛け、さらにはファンタジー映画でありがちな宝石を守る番人もいるかもしれない。


そんなところへ剣も魔法も使えない自分がついて行って一体なにができるのか。


ユナはそんなことを考えながら、首を横に振って無理だと態度で表していた。


「大丈夫だよ、ユナ。君がユウキと似ている魔力を持っているってことは、伝説の武器が使えるってことだから、なんの心配もいらないって」


ピピはダンジョンへ行くことを拒んだユナを見ると、ピヨピヨと耳元でさえずるように、彼女の肩に飛び乗って来た。

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