例えばこんなシーン
市川タケハル
兄と妹
「ねえ、お兄さま? 一緒に寝ませんか?」
可愛い妹が甘い息で誘惑してくる。
「バカ……、兄を誘惑する妹がどこにいるんだよ」
オレは小さな声で妹をたしなめる。でも、この可愛い妹をめちゃくちゃにしたいという欲望が心の底から湧き上がってくる。
「ダメですか? 妹が兄と結ばれるのは……?」
耳元で囁く声は、妹のそれというよりも女のそれだ。
「ダメに決まってるだろ……」
妹としての可愛さ、女としての色香。その
僅かばかり残った兄としての矜持と理性で、妹ながらこいつを犯し喰らい尽くしたいという自身の男としての欲望と獣性を御そうとする。
しかし、心の片隅でこうも悟っていた。兄としての矜持と理性は長くはもたないだろう、と……。このまま行けば、男としての欲望と獣性に自身が喰われ、この妹と禁断の愛欲に堕ちるだろう、と……。
それが解っていても、堕ちるまでは堕ちるわけにはいかない――。
「……お兄様、呼吸が乱れてきてる。体が熱くなってきてる」
妹が体をピタリと寄せて胸に顔を埋うずめてくる。そして、濡れた瞳で上目遣いに見つめている。……誘っている。
「妹の……くせに」
意図せず声が漏れる。妹のくせに、女を出しやがって……。兄に向って女の武器を使いやがって……。
「お兄……様……?」
妹が不思議そうにする。不思議そうに、潤んだ瞳でオレを見つめてくる。
可愛い。本能的にそう思う。
それと同時に、妹を女として見ているオレがいることに気付く。それに気付いて、心の中を罪悪感と背徳感が支配する。
イケないことをしている……。
心の中を支配する罪悪感と背徳感と、そして妹を女として見ているオレ自身から逃げるようにオレは妹を振り払って立ち上がる。
妹に背を向けて歩き出そうとした瞬間、後ろから柔らかく温かいものがぶつかってきた。そして、白く細い綺麗な腕がオレの胸へと回される。
「お兄様っ! 妹が……わたしが兄を好きになってはいけないのですか!?」
泣き声。すすり泣く声。背中に張り付けられた華奢な身体。大きいとは言えないがしっかりと女を感じさせる双つの柔い膨らみ。
「わたしは……兄に恋をしています」
唐突な告白。切なく、思わず二つ返事で返してしまいたくなるほどの濡れた声。
甘い。甘すぎる。
この妹はあまりにも甘すぎる。
「だったら……」
オレは回された腕を優しくほどく。そして、ゆっくりと妹の方に振り返る。
涙で濡れた瞳はより一層妖しく潤んでいる。
可愛い妹……。愛しい女……。オレの
オレは一筋の涙が流れる妹の頬を掌で触れる。柔く、温かく、熱い鼓動を感じる頬。
「オレのことを受け入れてくれるかい?」
口の端が浮く。この
触れてはいけない。触れたら終わる関係。兄と妹。でも、ずっと触れたかった。ずっと、オレのものにしたかった。この女を。男としての欲望と獣性に飲み込まれる。
そこにいるのは関係性では兄と妹でも、どうせ結局は男と女なんだ。否、男と女ですらない。オスとメスだ。
「お兄様……!」
妹が半泣きで驚きと悦びが綯い交ぜになった声を出す。その声を聞くオレには、もう妹ではなく女が、否メスとしての妹が見えている。そして、その女を犯す悦びに満ちた男としての、否、オスとしてのオレ自身しか残っていない。
例えばこんなシーン 市川タケハル @Takeharu666
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