陰キャで無口なモブは存在感が無さ過ぎて気付かれない。物之怪に狙われ易い体質を持つ主人公、物之怪の力を利用して戦うヒロインたちに狙われる。題名『もののけのもののふ』

三流木青二斎無一門

第1話


逃げ惑う黒守衆くろすしゅう

能力を発現しない武術のみで集われた者たち。

別名、烏合の衆と呼ばれる彼らは物之怪もののけにとって格好の餌だった。

刀を抜き放ち、昆虫型の物之怪と応戦する武之士もののふ

第三級の物之怪ならば複数人の武之士が集い殺す事は出来る。

だが、その昆虫型の物之怪は第一級。

能力者で無い武之士が戦うとなれば、数があろうと全滅は必死。

故に、殿を決めて残るは撤退、あるいは全員で応戦し、応援を待つか。

しかし、その儚い戦略も無意味になる程に、その化物は強力だった。


「ぐ、あッ…!」


細長い尾によって巻き付かれ、胴体を圧迫される武之士。

百足の物之怪による蜷局によって、骨が砕けて臓器が潰れ口から血を吐き出し絶命する。


「くそおお!!」


刀を振り回し、百足に斬りかかる。

だが、その肉体は鋼の様な甲殻に覆われていた。

この場に居る黒守衆の技量では傷を付ける事すら叶わない。

それでも戦闘を続行していたのは、彼らの人数が少なかった為だ。

元々、十五人は居た黒守衆。

それが、百足の物之怪と遭遇し一瞬で殺され、生き残ったのは僅か三分の一。

五名程となった今、殿を決めた所で逃げると同時に殺される。

ならば、一縷の望みを懸けて全員で立ち向かう事に決めた結果が虐殺であった。

残る黒守衆は僅か三人、腰が砕けて地面に横たわり、精神が壊れかけた者や必死になって生き残ろうとしている者だけだ。


「死ぬ…もう、終わり、だ」


百足の物之怪が泣き出す武之士に狙いを定める。

そして牙を剥いて突進した最中。


「うわッ」


腰を抜かした武之士の前に、白い壁が出現する。

杭の様に地面から伸びるその壁は、武之士を守り、物之怪からの攻撃を退ける。


「ま、まさか…白鈴様ッ」


歓喜の声が溢れ出す。

森の奥から出てくるのは、白色の仮面を被る、白銀の女性だった。

彼女の周囲には、専属の付き人が二名、物之怪の血を浴びながら武器を構えている。


涼玄りょうげん白鈴しらすず

治安維持部隊の隊長格である彼女。

その刀には、物之怪を殺し続けた事で怨念が宿る『獣臨刀じゅうりんとう』を携えている。


「…」


何も言わず、彼女は銀の刀を構え、百足の物之怪と戦闘を開始した。

付き人たちは、怪我をした武之士を安全な場所に移動させようとしている。


「生き残りは他に居るか?」


まだ戦闘が続行出来た武之士は首を横に振った。


「いいや、残りは俺たち、二人だけだ」


そう言った。

しかし、それは誤解だった。

まだ一人、生き残りが存在していた。

黒守衆の生き残りは三人。

もう一人は。


「(此処にもう一人居るんだが)」


何処までも影が薄く、存在感が無かった。

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