第16話 異世界孤児院
今日は土曜日。
学校は休みだし日課のスライム、ゴブリン退治も早めに終わった。
時間もあるし情報収集もかねて異世界メイド喫茶にでも行ってみようか?
けっしてメイドさんが目当てではなく、あくまでも異世界の情報収集を目的としてだ。
「あれ? ヒサシ。こんな所で何やってるの?」
「ミ、ミキ。い、いや、異世界の情報収集をしようと思ってね」
「休みの日でもヒサシは勉強熱心なのね」
「あ、ああ……。もちろんさ」
異世界メイド喫茶に行く途中だとは言えないな。
「そういうミキこそ。今日は何か予定あるのかな?」
「わたしは土日はいつも同じ所にかよってるの」
「え? そうなの?」
そういえばミキが休みの日に何をしてるか? なんて全く知らなかった。
「ええ、この先にある異世界孤児院のお手伝い」
「へえ。すごいね。孤児院のお手伝いなんて」
「うん。けど、わたしも手伝えるのは土日だけだし、とにかく人手が足りなくて困っているの……」
ミキはさみしそうな顔をした。
「俺でよければ手伝えるけど、何か出来ることあるかな?」
「え! 大丈夫なの? とっても助かる!」
ミキは笑顔で答えた。
「けど、大丈夫なの? 異世界の情報収集のほうは」
「あ、うん。大丈夫、大丈夫。異世界孤児院について全く知らなかったのでちょうど良かったよ」
まさか異世界メイド喫茶に行く予定だったとは言えない……。
---
普段通らない小道を行くと教会のような建物があった。
扉をあけて中に入るとたくさんの子供がミキにとびついた。
「ミキおねえちゃんだ!」
よく見ると猫耳のついた女の子や狼の顔をした男の子。
小さなスライムや小さなゴブリンまでいる。
みんなミキをかこんで背中にのろうとしたり、腕をひっぱったり、ミキの人気がすごい。
「ミキおねえちゃん。この人は?」
小さな猫耳のかわいい女の子が俺を指差して言った。
「この人はヒサシ、お姉ちゃんとおなじ学校なの。
今日はお姉ちゃんが仕事してるあいだ、みんなと一緒に遊んでくれるわよ」
「お、おう! 俺はヒサシ。よろしくな」
人見知りなのか女の子は、じーっとこっちを見てるので緊張してしまう。
笑顔で手をふってみる。
「ぷいっ」
え? ぷいっと言ってそっぽを向かれてしまった。
大丈夫か? 俺……。
「おやおや。今日はお友達も一緒に手伝ってくれるのね。本当に助かります」
奥の方からゆっくりとおばあさんが出てきた。
「はじめまして。ヒサシです」
「あー、君はよく公園でスライム退治してる子だね。いつもありがとう」
「えっ! そんな覚えててくれるなんて!」
俺の毎日のスライム退治、こんな所で感謝されるなんてうれしいな。
「それじゃあヒサシ。わたしは院長と掃除や洗濯、他にも色々仕事あるから子どもたちの面倒みてて」
「お、おう!」
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「ぐおわ!」
ちびスライムが腹にボディーアタックしてきた。
「うおおお! こいつよわいぞ!」
ちびっこゴブリンが背中からのっかってくる。
「うおっ!」
こいつらガキとは言え魔物。
常人では遊び相手も難しいだろう。
レベル1で相手するのは、かなり骨がおれる。
「ヒサシ大人気ね!」
ミキがうれしそうに近づいてきた。
「ミ、ミキ、こいつらの相手するの大変だな」
「ヒサシ相手だからみんなうれしくていつも以上にはしゃいでるのよ。
ほらほら、みんな。
おやつの時間よ。
おやつ食べたらお昼寝の時間ですよ」
や、やっと開放される……。
---
「どうぞ。こちらも」
院長のおばあちゃんがお皿をさしだした。
紅茶を飲みながら食べるクッキーはおいしい。
「今日はおつかれ。おかげさまで洗濯から掃除まで全部片付いたわ」
ミキが嬉しそうに言った。
さきほどまでの嵐のような騒ぎが嘘のように静かになった。
ガキどもは、おやつを食べたら昼寝してしまった。
「こんな場所があるなんて知りませんでした」
「そうだね。一般には隠されてるからね。子供とは言え魔物を保護しているというのはこちらの世界では理解されないからね」
院長のおばあちゃんは寂しそうに言った。
「魔物も小さな頃から人間と接して理解しあえば協力しあえると思うの」
ミキは真剣な顔をしている。
俺もびっくりした。
いつも倒しているスライムやゴブリンの子供が、人間とおなじようにじゃれてくるし話も通じるのだ。
「な、なんだ!」
扉が突然荒々しくひらかれた。
「我(われ)らは陸王トロール第六軍団。100人隊である!」
入り口、そして周囲を鎧姿のゴブリンに取り囲まれている。
「お待ち下さい! まだ移転先も決まっていないんです」
院長のおばあさんが必死に懇願している。
「一体、どうしたんですか?」
この場所を立ち退くように言われたんです。
なんでも異世界の陸王トロール様が拠点として使うとかで。
「そんな!」
ミキが驚いている。
「昨日、突然言われて……
まさかこんなに早く……」
院長のおばあちゃんは目に涙をためている。
「そんな無茶苦茶なことが許されるなんて」
異世界には法律も何も無いのか?
弱肉強食の力で支配された世界なのか?
「ほれ! さっさと出ろ!」
100人隊長が近寄ってきた。
「やめてください! ここには異世界で親とはぐれた子供がいるんですよ」
「なに? 人間が我々に指図しようと言うのか?」
「いえ、話し合いが出来れば」
「我(われ)らの世界の話し合いはこういうやり方だ」
突然、100人隊長はやりを振りかざしてきた。
なかなかの威力、俺は部屋の壁までふっとばされた。
「そうですか。これがあなた達の話し合いの方法ですか」
俺は立ち上がりゆっくりと100人隊長へと近づいた。
100人隊長のレベルは20、その他の兵隊はレベル10前後。
建物の中に兵隊30体、建物の外に70体。
俺1人で解放レベル35で十分戦える。
「ミキ、院長と子供たちを守ってくれ」
「はい!」
ミキも相手の戦力をすでに分析しているのだろう。
「いくぞ!」
「なに?」
100人隊長が驚いた顔のままその場に崩れ落ちてゆく。
その間に残りの兵隊を次々と素手で沈めた。
「え? なにが起きたんですか?」
院長のおばあちゃんは目を丸くしている。
周囲に倒れ込み苦しむ兵士が転がっている。
俺は100人隊長の前に立ち伝えた。
「この場所を立ち退くことは出来ません」
「ぐっ、ここまで強い人間が居るとは……」
100人隊長は苦しそうにうなだれている。
---
「すいません。壁とかこわしちゃって」
俺は壊れた壁を片付けながら言った。
「いんや。助かったよ。けど、また兵隊達が来そうで……」
「大丈夫です。俺が見張りに来ますよ」
「それは助かるねぇ。わし達の世界では力が全て弱い者は虐げられるだけさ」
「こちらの世界もおなじようなものです。腕力では無く金や権力がものを言いますが」
理不尽なやり方は許せない。
今の俺は戦闘においては人を守れるぐらいのレベルがある。
これまで泣き寝入りするしかなかった俺とは違う。
「ところであの兵隊はどこから来てるんですか?
街中を歩いていればすぐにわかると思うし見たことも無いです」
「街中にそびえ立つ巨大なタワーから毎日決まった時間だけ出てきているようです」
異世界の魔物が、あの巨大なタワーから頻繁に出入りしてるとは驚きだ。
異世界パンデミックは偶発的な現象では無いのか?
巨大なタワーが異世界とつながっているとでも言うのだろうか?
「ところで陸王トロールとは何者なんですか?」
「異世界の国を治める王を支える四大聖獣のひとりじゃ」
陸王トロールの上に更に王が居るのか……。
思ったよりも大きな組織を相手にしてしまったのかもしれない。
「その異世界の王に話は出来ないんでしょうか?」
「めっそうもない。異世界の王ベルゼバブ様には会うことすらかなわないよ。」
ベルゼバブ?
俺がたてついてしまったのは、あのベルゼバブなのか?
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