薬屋さんの3人娘!

斧田 紘尚

いたずら!

実験失敗?

「よっこいせっと」


 荷物を玄関口に降ろすと、板張りのフローリングが太鼓の様にドスンと音を鳴らす。


 荷物の中身は私が市場で買い集めてきた白や赤などカラフルなキノコ、傷や胃薬にも使えるような薬草、べたべたとくっつくような海藻、それに食事に良く出るような物からあまりみない珍品の陸上海上問わない多種多様な生物の干物。


 知識の無い者が見れば一体全体何に使うのかと思う程にごちゃ混ぜな物品たちだが、彼女にとっては一つも欠かすことのできない大事な素材なのだ。


「おぉ、やあお帰り。早かったねえ。」


 玄関口の傍にある作業場から私を労う彼女の声が響く。


「ただいま戻りましたぁ。」


「助かるよぉ。どれどれ、買い物の成果はどんなものかね。」


 スリッパで床をペタペタと鳴らし、怪しげな黄色の液体が入ったフラスコを片手に私の元へ歩み寄って来る。


「お使いのメモ通り買ってきたけど、これでいい?」


「ん?ああ、これで大丈夫だよ。まあ足りなければまたお願いするかもだけども。」


「その時はまた言ってね。買ってくるから。」


「ん。たのむよ。おや・・・。」


 突如、彼女の手元の黄色い液体が湧きたったと思うと、次第にプシュッと白い煙が立ち昇り始める。


「それ、昨日言っていたアレ?」


「そうだよ。だがちょっと反応が・・・。」


 と彼女が普段と異なる反応を示す手元の薬品を覗き込むと、その液体は更にボコボコと沸騰するような様子を示す。


「それ、大丈夫なんです?爆発しないよね?」


「そんな事は無い筈、だが。うーん。」


 液体は更に過激な反応を示しつつあるのを見て、彼女は「ちょっと外すわ」とまたペタペタと作業場に向かって歩く。


 その途端、ボン。


 彼女の手元の液体は大きな音を立てつつ、部屋の中を灰色に覆い隠すには十分な量の煙を発生させた。


「ちょっと、ゲホ、なにこれ!?」


「ゲホ、んああ、なんか不味ったかなあ・・・?」


 私と彼女は余りの刺激臭と煙の量に飲まれながらけほけほと咳を吐き、まだはっきりしない視界の中を新鮮な空気を求めて部屋の中を彷徨う。


 私はガタンガタン、と手さぐりで回りの物を倒しながら私たちの生存に必要な環境を探るものの、灰色の煙は私の試みを防ぐようにその避難所を覆い隠している。


 更に、手元に布切れを当てこの有害かも知れない煙を吸わないよう慎重に息を吸うものの、煙は布を通り越し鼻腔と舌を辛いスパイスの様に刺激し、煙は遂に私と彼女を亡き者にしようとし始めた。


 彼女の実験は最近失敗する事が多かったが、ここまで酷い事は無かった。大抵は笑い事で済ませるような物ばかりなのだが、今回のように部屋をダメにしかねない失敗は初めてだ。


「窓・・・、窓・・・。あった!」


 この孔明の石兵八陣のような死地の中に光明を見出すが如く、彼女が漸く窓まで辿り着き思い切り窓ガラスを上げると、視界を妨げている灰色の煙が外に排気され段々と晴れていく。


「ちょっとなにこの煙。目が痛い・・・。前が見えない・・・。目が見えなくなったらどうするの・・・。」


 と彼女に向かって私は文句を垂れるものの、彼女は全く反省するそぶりすら見せずあたかも実験に大成功した研究者の如くとても興奮した様子でウキウキした様子で私に向かって、


「よおおおし!できた!出来たよ!」


 と雄叫びを上げるのだった。


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20230514 口調修正

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