第9話
9話
ーー校門を出て二人一緒の方向へ隣だって歩く。
こうやって隣だって歩くのは一年ぶりかな。そんな事を懐かしく感じてちょっとおかしくなった僕はクスリと笑ってしまった。
「何だよ?」
それをりゅうちゃんに気づかれてしまい、りゅうちゃんは僕のほうを見て眉をしかめていた。
「ううん、違う」僕は慌てて首を横に振って、「前もこうやって帰ってたなぁって」言いながらりゅうちゃんに笑みを返した。
「あ〜。そういやぁ、そうだな」
りゅうちゃんはちょっと思い出すように視線を上の方に向けて棒読みみたいに言った。
チクリ。
りゅうちゃんの何気ないその一言に僕の心は小さな傷をつけた。
りゅうちゃんにとっては何気ない幼い頃の思い出みたいだけど、僕にとっては今でも鮮明で大切にしている思い出のひとつ。
(ううん。『思い出』じゃない)
あの頃のように無邪気で素直な関係をまた築きたい。
また、りゅうちゃんと一緒に笑い合っていたい。
僕がりゅうちゃんに抱いた『特別な』感情は伏せたままで。
(……僕、りゅうちゃんが大好きなんだ。友達とかじゃなくて、その……恋人みたいな愛おしいって気持ち)
そんな風にりゅうちゃんに言ったらどう反応するかな?
……拒絶、されちゃうかな。それはやっぱり嫌だな。
想いを否定されるくらいなら、このまま隠してたほうが苦しいけどまだ楽だよね。だって【友達】って関係は続くから。
「なんか、懐かしいね」
「おう」
何気ない会話。でも僕とりゅうちゃんの間には少し距離が出来てしまった感じがする。
ーーそりゃそうだよね。だって一年は顔合わせてないんだもん。
りゅうちゃんは何も言わずに学校来なくなっちゃったからそれについては少しモヤモヤするところもある。別に嫌われてるわけではないからいいんだけど、やっぱりちょっと勝手だなって思う。でもまあそんなところも僕は好きなんだけど。
なんて事を思いつつ、りゅうちゃんの横顔を見ていたらりゅうちゃんがふいにこっちを見てきて目がバッチリ合ってしまった。
「……何? 俺の顔なんかついてる?」
少し探るような視線で聞いてくるりゅうちゃん。
「ううん別に」
僕は首を横に振ってさりげなく視線をそらした。
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