第403話 アニスが入ったドアの中 ①

 

 次にドアに入ったアニスは階段を降りると長い通路を歩き、外に出ると、そこは森の中だった。

 森といっても、薄暗い気味の悪いところ。


「ここ、どこ?」振り返ると大木が立っていて、幹のところに大きな穴が開いている。

「どう、しよう。どっち、行けば、いい?」


 薄暗い森の中に入る勇気がないので大木に沿って歩き、裏側へ行ったとき、微かに歌らしい声が聞こえてきた。


「誰か、いる、かしら?」声のする方へ、薄暗い森の中を進んでいくと、だんだん声がハッキリしてくる。

「向こう側、から、だわ」茂みの中からソッと覗くと、歌っていたのは巨大な花弁を持った真っ赤な花だった!


「誰?」アニスの存在に気付き、振り返ると「あら、あなた人間ね? ああ、恐がらなくていいのよ。さあ、こっちへいらっしゃい」赤い花弁を揺らしながら声を掛けてくる。「さあ、いらっしゃいな。外の世界から来たんでしょう?」


「外、世界?」

「ああ、あの大木の下にあるドアから来たんでしょう?」

「エッ、ええ」


「じゃあ、鍵を捜しに来たのね?」

「エッ! どうして、知ってる?」

「私、鍵がある場所を知ってるの。教えてあげるわ」

「本当、ですか!」


「ええ、本当よ」と言われ、茂みから出て花のほうへ歩いていくと、後ろから「おい、お前、食われたいのか?」と声を掛けられ、振り向くとつるが体に巻き付いてきて、アッという間に花のほうへ引き寄せられてしまった。


「誰だか知らないけど、余計なこと言うんじゃないよ!」巨大な花が、さっきとはうって変わったシャガレ声を出す。

「何を、する、ですか!」

「ばっかだなあ。優しい顔して声を掛けてくる奴は注意しろっての、常識だろう?」

 声の主は、後ろの木の幹に寄り掛かっていた。


 猫のようなとがった耳を持ち、伸び放題の赤茶けたボサボサの前髪が目を覆っているので表情はわからないが、若い男らしい。


 巨大な花は男をにらみ「うるさいねえ。これは私が見付けた獲物だよ。横取りするんじゃないよ!」威嚇いかくすると視線をアニスに移し「人間なんて久しぶりだねえ」花弁の奥にある大きな口を開けると、ベロッと舌舐めずりをする。


「わ、私を、食べる、ですか!」

「この状態で、他のことが思い付くかい?」

「ったく、そんなこと聞いてる場合かよ。見て判んねえのか? そいつは食虫植物だ」

「し、食虫植物!」


「あんた、トロいなあ」

「た、助けて、ください!」

「今さらそんなこと言っても遅いよ。あんたは私に食われちまうんだからさ!」


 食虫植物が大きな口を開けると、バサッ!

「ギャーッ!」巨大な花はものすごい悲鳴を上げて、真っ二つになって倒れた。


「……い、いった……」地面に落ちたアニスの前に、さっきの男が剣を持って歩いてくる。

「あ、あの……」怯えた目で見上げると「ただの気紛れ」

「あ、ありがとう、ございます」


「礼なんていらねえよ。あいつの態度が気に食わなかっただけさ」男は剣をしまい、しゃがんでアニスを見ると「鍵を取りにきたって本当か?」

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