ラディウスソリッシュ ~古代神の聖剣~

夏八木 瀬莉乃

第一章 旅の始まり

第1話 スターズフェスティバル ①


 『我が力を受け継ぐ者よ。なんじが災いに巻き込まれしとき、助け手を必要としたとき、我の元を訪れよ』






“お集まりの皆様、今年もラウディアス星にお越しいただきまして、ありがとうございます。今回も、皆様を美しい世界にご案内する時期がやってまいりました”


 DJブースは見晴らしのよい砂浜の真ん中に、二階建てのログハウス風に作られていて、夕日が半分ほど海に沈むと、この星で人気のDJがアップテンポの音楽をバックにしゃべりはじめる。


“さあ、沈みゆく夕日をご覧ください。もうすぐ異世界への扉が開くカウントダウンが始まります。心の準備はできていますか?”


 辺りが徐々に薄暗くなって星のまたたきが見えてくると、BGMが美しいピアノの旋律せんりつに変わるので、ザワついていた会場が静かになっていく。


 ラウディアス星は、大宇宙の南西、サウザンドピークス銀河系の西部に位置するリゾートエリア内のファルネス系、第三惑星で、系星内で最大のイベントであるスターズフェスティバルが始まろうとしていた。


 見どころは夜の海に映しだされる満天の星々。

 なぎの状態が多くなるこの時期、日が沈むと、海面が夜空に輝く天星画てんせいがを鏡のように映しだす。

 それは宇宙空間にたたずんでいるかのようで、色鮮いろあざやかな星々がきらめく光景を見ることができる、美しい別世界に入り込んだような不思議な感覚を求めて、大勢の人々がやってくる。


「ロイ様。今年は例年以上の観光客数を確保できて、大成功ですね」

「気が早いな。終わるまで成功したかどうかわからないよ」


 DJブースの後ろに置いてあるテーブルに座り、目の前の複数のモニターに映る大勢の観光客を見ると、集客に力を入れてきた成果に満足していた。

 今回からフェスティバルの実行委員長に任命され、試行錯誤しながらも初の大役を楽しんでいる。


「今回から新しく参入した花火制作会社が、ロイ様が実行委員長に就任したお祝いに、盛大な花火を用意しているそうですよ」

「わざわざ僕のために? それは嬉しいな。どんな花火なのか楽しみだ」


 そして、思いもよらぬ異変が始まったのは、満天の星がまたたきき始めた午後七時ごろ。


 フェスティバル開始の合図となる数発の花火が、海沿いのホテルの屋上から打ち上げられた直後、夜空を彩る美しい花火に歓声を上げる声が、悲鳴に変わっていった。


 突然、隣でしゃべっていた友人や恋人、両親や子供たちが次々と石になっていくのだ。

 その光景を目の当たりにして、泣き叫ぶ声や悲鳴があちこちから聞こえてくると、イベント会場はたちまちパニックとなり、収拾がつかなくなっていく。


「ロイ様! ブース内に避難してください!」

「何言ってんだ! 各警備員! 観光客を近くの建物内に誘導するんだ!」


 警備員たちも石となっていくメンバーを出しながら、観光客の避難誘導ひなんゆうどうを最優先に行動するが、パニック状態となった集団をおさえることが難しく、苦戦していた。


 そして、翌朝になると、イベント会場の光景は目をうたがうくらい悲惨なものとなっていた。

 人はもちろん、植物も動物も建物も、海でさえ石となっていたのだから。

 そして、最悪なことにこの現象は周辺に広がっていき、近隣の都市をおそいだしていた。


 各都市の最高責任者から非常事態発生の報告を受けたラウディアス星の政府はすぐに対策本部をもうけ「観光客のリストを作成し、無事だった人達の星外脱出の手配を急げ!」

「すぐ手配します!」


さらに調査チームを発足して原因究明に乗りだしたが、現場に向かった調査員が次々と石になってしまい、犠牲者を増やしていくことになってしまった。

「Aチーム全滅です!」

「もっと気密性の高い防護服を用意しろ!」


 石化の原因を突き止められず、対応に手をこまねいている間にもこの現象は勢いを増していき、次々に周辺都市を飲み込んでいくのを、ただ見ていることしかできなかった。



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