第140話 見逃す? 私達を?


「もう良いだろう? これ以上彼女を痛めつけて何になる?」


 そして相手の魔術師まであと数メートルという所で男性の声で私にこれ以上は止めるように言われるではないか。


「……誰ですか?」

「私達の邪魔をする男性なんて……命しらずな物好きもいたもんだわっ」

「邪魔するならぶっ飛ばす……デスッ」


 赤の他人、それも魔術師にすらなれないような、女性に守られてのうのうと日々を生きている男性に一体私達の何が分かるというのか。


 そう思っただけで即座に殺したい程腹が立つ。


 しかしここで『邪魔だから』と男性を攻撃してしまうと、私達が忌み嫌っている魔術師達と同じことをしてしまうので、ここはぐっと堪えて声だけ聞こえて来る男性へと話しかける。


 それは他の二人、理沙とリーリャも同じらしく、私と同様にぶっ飛ばして分からせてあげたいだろうに、ぐっと堪えているのが彼女達の表情からも窺えて来る。


「いやいや、流石に犯罪行為を目の当たりにして『はいそうですか』と見逃すことは出来ないだろう?」


 しかしながら件の男性は私達から離れていく訳でもなく、むしろ更に首を突っ込んで来ようとしてくるではないか。


「見逃す? 私達を? 声からして男性であるあなたが?」


 その為今度は殺気を孕んだ声で威嚇目的として返すと、私達を袋小路になっている出口を塞ぐようにして、ビルの上にいたであろう三人の女性が飛び降りて来るではないか。


 恐らく私達の戦いもビルの上で観戦していたのであろう。


 そうであったのならばこの魔術師が今まで行ってきた非道も聞いていた筈であろうに何故私達を止めるというのか。


「えぇ、できるわよ? あなた達如き組織の捨て駒として使わされているような魔術師擬きなど私達の主には相手にすらならないわね」

「ほんと、可哀そうな奴らだぜっ!! 俺達の主に勝てると思っているんだからなっ!!」

「でもぉ~、どうせすぐに分からされて終わるとぉ、思いますぅ~っ」


 そして、逃げ道を塞ぐようにして立つ、黒い衣装に身を包み、黒い仮面で顔を隠している女性たちもまた、件の男性同様に私達をどうにかできると思っているようである。


 この黒い衣装に身を包み黒い仮面で顔を隠している女性たちがいるという事は、私達に声をかけて来た男性は恐らくネットでバズっている黒の貴公子で間違いないだろう。


「……その衣装、ここ最近噂になっている黒の魔術師でしょうか? 確かに、ネットに上がっている動画を観る限りあなた達は並の魔術師以上の強さである事は間違いないでしょうが、それでも今能力を底上げしている私達には勝てる筈がありません」

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