第120話 どう考えても怪しさしかねぇ
「あぁ、そうだな。 麗華の考えている通り『今日から今起こっている問題が解決するまでの日数プラスα分、俺の側で暮らす事ができる』というのはちょっと了承できかねるな。 そもそも早い話がそれ(麗華が問題を解決するまで俺の側にいる事)を回避するための取引であるのに、その問題が解決する日数よりも多く側で過ごせるようにするという願いを了承してしまっては本末転倒だからな」
「でしょうね……。 危うく騙されるところだったわ。 でもこれで私は気兼ねなく東條様の側で──」
「しかしながら麗華。 たったそれだけの事でこの『何でも言う事を聞く券』を放棄するというのは余りにも愚策と言えよう」
そして、自分の考えが正しいという事が嬉しかったのか、にまにましながら俺に抱き着いてこようとしてくるので俺はその前に一石を投じる。
はっきりって俺自身何も考えていないのだが、無駄に頭の切れる麗華であればこの『何も考えていない』というのが逆に有効であると俺は判断した。
そして麗華は俺の言葉を聞いた瞬間に固まり、何やらぶつぶつと呟き始めているのでどうやら俺の考えは正しかったのであろう。
変に頭の切れる麗華だからこそ、こういう答えのない沼にハマってしまうとなかなか抜け出すことができずにぐるぐると悩んでしまうであろうし、実際麗華はその沼にまんまとハマってくれたのであろう。
とりあえず、こうして麗華が悩んでいる間は俺にべったりとくっつくという事も無いだろうし、その間に俺も麗華が言ってくる内容への切り返しをじっくりと考える為の時間に使わせてもらうとしよう。
◆
「ねぇ、依鶴ちゃんはどう思うかしらぁ~?」
そう私と同じように双眼鏡を覗きながらある一点を眺めている的場依鶴へと話しかける。
「そうだな、千里の言う通りどう考えても怪しさしかねぇな……。 しっかし、麗華一人だけ抜け駆けとは……後で問い詰める必要がありそうだぜ」
すると、どうやら依鶴も私と同じ答えにたどり着いたらしく、双眼鏡を覗いているその額にはうっすらと青筋が浮き出ているのが分かる。
その怒りが私に向かっているものではないと分かっていても普通に怖いのだけれども、今はそんな事を言っている時ではないだろう。
「しっかし、良く探し当てたな……千里」
「えぇ、私でもビックリしたのだけれどもぉ~、あの時私の王子様が落としたハンカチを拾ってからぁ~、直ぐにジプロックに入れて香りなどが風化しないように保存していたのが功を奏したみたいだわぁ~」
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