第94話 おかしな事もあるものだな


「どうしたのかしら?」

「なんか……すこし肌寒くないか?」

「そうかしら? 私は普通だと思うのだけれども?」


 そして何となく麗華に聞いてみるのだが、どうやら急に肌寒くなったと感じたのは俺だけのようだ。


 おかしな事もあるものだな。


 そんなこんなで少しだけ不思議な事があったり、麗華が撮った写真をSNSに上げる事を阻止したりしながらも地下鉄は無事隣の町に到着した。


 時間にして約三十分程度だろうか?


 この移動時間が、いかに人類がスレットによって魔術師が現れるまで追い詰められていたのかが窺えて来ると共に、今まで人類を守って来てくれた魔術師達には頭が上がらない。


 スレットが現れる前は世界人口が八十億人を突破していたというのだから、その半分以下に減ってしまっている現代では想像もできない数である。


「それで、どこに連れて行ってくれるんだ?」

「…………へ?」


 そして俺達は手をつないだまま地下鉄の駅から出て隣町へと繰り出すと、俺は一度つないだ手を放して身体を伸ばした後、再度手をつなぎ直しこれからどうするのか麗華に聞く。


 しかしながら、これからどこに行くのか聞かれた麗華本人はまるでハトが豆鉄砲を喰らったような表情をしたかと思うとその表情で固まってしまうではないか。


 その光景を見た俺は『コイツ、俺をデートに誘った後の事は全く考えていなかったのか』という事を察してしまう。


「何も考えていなかったのか?」

「いやだって、デートに誘うという行為を起こすだけで精いっぱいだったし、デートに誘っても断られるのが関の山だと思っていたもの……。 正直何も考えていなかったわねっ!」


 その事を指摘された麗華は最初こそ申し訳なさそうにしていたのだが、最後の方は何故か偉そうに胸をそって『何も考えていなかった』と言うではないか。


「そうか……まぁスマホでおススメスポットとか検索しながら巡れば良いか。 因みに麗華の行きたい場所とかあるか?」

「特にないわね……。 あ、スマホで検索して出て来るおススメデートスポットとかには行ってみたいかも……」

「了解。 なら早速調べてみるか」


 そして俺達はスマホを駆使してデートを満喫して帰路に着く。


 異世界にいた時はまさかこんな『異性と日常デート』というイベントができるとも思わなかったし、そんな余裕など俺達も異世界の住民たちも無かった。


 常に魔王軍やその配下に怯え、ひっそりと暮らしていく。 そのほんの少しだけ訪れる心休まる時間だけが安らぎであったといえよう。

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