第93話 身体が冷えて来たのかもしれない


 そして地下鉄の車両には現在俺と麗華しかおらず、まるで地下鉄を貸し切りにしたようにも思え、この光景を写真にと撮ってSNSに投稿して自慢して自己顕示欲を満たす人たちの気持ちが少しだけ分かった気がするのだが、流石にそういう趣味は無ければ自己顕示を満たしたいとも思っていないのでやらないのだが。


 そんな事を思いながら目的地へ着くのを待っていると、隣から『カシャッ』という音が聞こえてくるではないか。


 まさかなと思いながら横を振り向くと麗華が対面のガラスに映っている俺達を、スマホを使って写真を撮っていたようである。


「向こうの席のガラスにうっすらと写っている、手を繋ぎ二人並んで座る私達……この写真は現代アーティストや写真家が撮ったどの作品よりも、比べる事すら失礼では? と思える程に物凄く良い写真じゃないかしら……。 あぁ、今すぐにでも独身女掲示板に貼ってみたい欲求が……」

「止めなさい」

「…………へ?」

「止めなさい。 独身板にその写真を貼るのは止めなさい。 というかSNSに貼るという思考を捨てなさい」

「……なるほど、それもそうね。 これは二人だけの宝物だものね。 この素晴らしい写真の存在をしっているのは世界で私達二人だけ……えへえへ」


 まだ写真を撮るだけならば良いのだが、その写真を麗華はあろうことか『独身女掲示板』に貼ろうとしていたではないか。


 流石にそれだけは阻止しなければならないと思った俺は麗華に止めるように注意するのだが、意識していないのに敬語になってしまうくらい焦っていた。


 これ程焦った事は過去一度だけ、異世界で生活していた時朝起きたら隣にパーティーメンバーであるエルフが裸で抱きついていた時以来である。


 確かあの時も焦って敬語になってしまっていたな、と今となってはそんなアクシデントも楽しい思い出である。


 結局なんとか俺が片思いしていた同じパーティーメンバーの女性にはどうにかこうにかまる一日かけて誤解は解けたのだが、それから三日間は口もきいてくれなかったな…………。


──あぁ、またケイスケが私の事を思っているわねっ!! これってひょっとして今ケイスケは私をオカズに発散運動をしているに違いないわねっ!! まったくもう、何で私が近くに居る時にその事(私をオカズにしている事)を教えてくれなかったのかなっ!? 教えてくれたら即ベッドへダイブしたのにっ!!──


 ん? 先程から過去の思い出を思い出していると何故だか物凄い悪寒に襲われるのだが気のせいだろうか? いや、気のせいだろう。


 きっとこの電車の空調が効きすぎ少しばかり身体が冷えて来たのかもしれない。

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