第36話 殴っても許されると思うんだ
そう思い俺は麗華を無視しようとしたのだが、その麗華の声は次第に弱々しいものへと変化していき、ついには明らかに泣き声へと変わっていくではないか。
「何泣いてんだよっ!? この状況をご近所さんに見られて変な勘違いをされたらどうしてくれるんだよっ!?」
そして俺は玄関前で泣き出しそうになった麗華を仕方なく家の中へと入れる。
「……な、泣いてないわ……っ! 勘違いしないでくれるかしら。 そもそも初めから意地悪をしないで私をこうして家の中へ入れてくれれば良かったのであり、もしご近所さんに勘違いをされたのであれば私ではなく、どう考えても意地悪をした東條様の責任よね? …………へぇ、思ったよりも質素なのね。 男性の一人暮らしってもう少しこう、散らかっているイメージだったから意外だわ」
目を真っ赤にして良くそんな事が言えるな……。 そもそも俺からすれば麗華が俺の家に来ること自体が嫌がらせ以外の何物でもないんだが?
と思ったのだが、ここで追い打ちをかけて泣かれても面倒くさいのでぐっと我慢する。
「……勝手に触るなよ?」
「分かっているわ」
そう返事をしながら麗華は食器戸棚を開けて食器類を確認し始める。
……行動とセリフが一致していないのは喧嘩を売っていると判断してもいいのだろうか?
「使われている食器を見る限り本当に一人で暮らしているみたいね」
そして俺が一人暮らしである事を確認した麗華は何故か嬉しそうな表情になる。
「そんな事で嘘ついてどうするんだよ……それで?」
「それでって……?」
「いや、何しに俺の家まで来たのかって言ってんだよ。 何か斎藤博士関係か何かで俺に伝えたい事があるからわざわざ俺の家まで来たんだろう?」
「は? 何もないと東條様の家に来ちゃいけないのかしら?」
なんだろう、会話が通じているようで通じていないような気がしてならないのだが? すこしばかり頭痛がして来た。
「今の俺とお前の立場を分かって言っているのか? 軍に怪しまれかねない行為は出来る限る慎むべきだろうが」
「…………っ!!」
そして俺がそう言うと麗華は『気が付かなかったっ!! 確かに言われてみればそうだわっ!!』というような表情でハッとするではないか。
なんだろう、殴っても許されると思うんだ、俺……。
「じゃ、じゃぁ二人並んで登校も……」
「どうしてそれが許されると思ったんだよ……。 怪しさ満点じゃねぇかよ。 そもそも昨日の朝の件もかなり危ない事してたって自覚すら無かった事に俺は驚きを隠せないんだが?」
「……それじゃぁ私たちは普通の恋人のような事は出来ないという事じゃない……っ!!」
「そもそも俺たちは恋人じゃねぇからする必要もねぇなっ!」
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