第15話 願望が聞かせた幻聴



 あぁ、神様。 私の命を捧げるので千里を救ってください。


 そう願うも、千里は私の目の前で腹を切り裂かれ、臓物をまき散らしていく。


「あぁ……」


 そしてドチャリという音と共に千里が地面に倒れる。


 殺す。


 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。


 こいつだけは生かしておけない。


 ここでコイツを逃がしてしまう、または町への侵攻を許してしまうなどあっては、私は恐らく一生立ち直れないであろうし、一生自分自身を許せないであろう。


「止めておけ。 お前ごときじゃどう足掻いても勝てないどころか傷一つ付けられねぇよ。 それこそ怒りで我を忘れているようではな」

「誰ですか貴方はっ!! そもそも声からして男である貴方に何が分かるというのですかっ!! いつも防御壁の内側でのほほんと生きているだけの存在の男性である貴方にっ!! その平和は誰が守ってくれていると思っているのですかっ!? そこをどかないと殺しますよっ!!」


 そして私は怒りの感情を抑える事もせず、むしろ怒りの感情を利用してやる勢いで目の前の化け物へ突撃しようとしたその瞬間、仮面を被った黒ずくめの男性が立ちはだかり、私の邪魔をするではないか。


 こんな時ですら、男性という生き物は私の邪魔をするというのか。


 こんな奴らを守る為に千里は死んでいったというのか……。


「お前ごときが? この俺を? エンシェントドラゴンや数百年生きた竜種ならばいざ知らず、百年も生きていないような若い竜種個体一匹に手も足もでないお前が? 俺を殺すだって? 冗談は寝て言え。 あと、邪魔しに来たのではなくお前たちを助けに来たのだ。 そこをはき違えてもらっては困るな」


 そう目の前の男性が言うと、指を『パチン』と一つ鳴らす。


「光魔術である完全『スーパラティブ・キュア』を施してやったが、流した血液まで元に戻るわけではない。 こいつを連れてお前たち魔術師は俺の邪魔にならない所に避難しておけ」

「だ、男性ごときが私を──」

「俺の言う事が聞けないのならばそのまま戦闘に巻き込まれて死ね」

「……っ」


 さすがの物言いに再度言い返してやろうと思ったのだが、男性の放つ殺気で私は思わず出そうになった言葉を飲み込んでしまう。


「あれ……? 私、生きてる……? 身体も無傷……っ!」


 そんな私の耳に、千里の声が入ってくるではないか。


 そんな訳がない。 おそらく私の『そうあって欲しい』という願望が聞かせた幻聴であろう。

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