勇者として召喚されて30年。 魔王を倒して元の世界へ、転生時の時間軸と身体(異世界で上がったレベルは据え置き)で戻されたので今度は平穏に暮らしたい
Crosis@デレバレ三巻発売中
第1話 プロローグ
魔術と科学
それは人類が知恵を得る事により手にした武器である。
それら魔術と科学は現代社会において日常生活では欠かせない物にまで昇華されており日々の暮らしを支えているのと同時に武力としても重宝されている。
そしてそれらを、又はその両方を組み合わせて能力を行使する者を、科学が発展した現在においても敬意と畏怖を込めて魔術師と呼ぶ。
一般人からすれば発展した科学も魔術も見分けがつかないのだろう。
その魔術師の中でも、特に魔術師ランクA以上ともなると国からの補助金などの多額の支援、または大手企業のスポンサーから疑似戦闘スポーツのクラブからの引き抜きまで、魔術師上位ランカーというだけで人生勝ち組とされる。
しかしながら俺こと東條圭介はそれら好待遇を羨ましいとも思わないし、むしろ更に好待遇にしても良いぐらいだと思っている。
その思考は俺こと東條圭介が魔術師上位ランカーだからとかではなく、むしろFランクと最低ランクである俺なのだがそう思わずにはいられない。
そう思ってしまう最大の理由に彼ら彼女らは災害が起きれば支援活動へ赴き、戦争が起これば前線に送られるのだから。
それは当然未知の怪物(通称スレット)が出現した時も同様である。
これは言い換えれば己の命と引き換えに華やかな日常とステータスを与えられているという事であり、俺はそれを羨ましいとは到底思えない。
そんな思考を持つ俺でも昔は多分に漏れずアイドルやヒーローのようにもてはやされる魔術師上位ランカーに憧れを抱き、俺もいつか魔術師上位ランカーになりたいと夢見たものである。
しかしながらそう思えなくなったその理由の一つに自分の魔術師としての才能の無さも勿論あるのだが、それ以上に約三十年間の経験が大きい。
その三十年という月日に何をしてどうしてこういう思考になったのかと言うと、俺は三十年前に異世界に勇者として召喚され、そして三十年間魔王討伐の為に魔族との戦闘に明け暮れ、そして魔王を討伐した俺は女神との契約した通り俺が召喚された三十年前の現代へと戻されたのである。
勿論、肉体も当時十六高校二年生の頃の肉体であり、あの濃厚な三十年間は夢だったのではないかとふと思う事すらある。
それでも、忘れる事など出来ようはずがない。
魔王により腐敗した世界、目の前で死んでいく仲間、そして愛した女性の死。
忘れる事などあろう筈がない。
だからこそ俺は強く思う。
必要最低限しか戦いたくない、戦わなくて済む生活をしたい、と。
もうあんな生活も大切な人がいなくなるのも経験したくない。
そう強く思いながら俺は歯磨きをする自分の顔を鏡で見る。
三日間寝ていない社畜のような覇気のない表情に大きなクマ。
我ながら酷い顔である。
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