第105話 後継ぎの力
「よぉ、久しぶりだな…千代田の悪魔。」
「まだ現役続けてんのか、松方のおっさん。」
嘗て関東一円を恐怖で支配した最強の不良娘、千代田の悪魔こと武生神娘。
そんな不良娘も38歳、俺も歳をとるはずだ。
「もう一線は退いてる。今はしがない区民生活科のお荷物だ。」
そう言って立ち上がる。
「俺としちゃぁ、あの最強の不良娘がガキ4人の母親ってぇのが信じられねぇがな。」
あの頃に比べ目つきも穏やかになり、人妻で母となったのだと分かる。
「4人で終わらせる気はねぇけどな。」
そう下腹部を撫でる千代田の悪魔。相変わらずどこかズレている。
「お盛んなで羨ましいねぇ。」
そう適当に返しながら鍵を手にする。
「オメェの情事はどうでもいい。さっさと引き取ってくんねぇか…拘置所がぶっ壊れちまう。」
「バカ共が…」
呆れた様に溜息を吐く千代田の悪魔。
「アホ!!まな板!!処女!!」
「うっさいわ!!こんホルスタイン!!クソビッチ!!」
格子越しに幼稚な罵り合いをするゲロと酒の匂いを漂わせるふたりの美女。
「うるせぇなぁ…いっぺん死んでみるか?大バカ共が…」
人妻となった悪魔は、あの頃の目つきに戻っていた。
「み、神娘姉…」
「姐さん…」
青い顔をしたふたりの悲鳴と同時に、拘置所に眩い光が放たれた。
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「香紅璃お嬢様!!」
ダイエットの為に始めた早朝ランニング。
その初日を終え、自宅付近の公園で持って来た水筒で水分補給を行いながら一息ついていた最中、護衛さんが絶叫に近い声を上げ私の前に立った。
本当に一瞬のことだった。
釣り糸の様なものが彼に突き刺さり、苦悶の表情ながらも声一つ出さない護衛さん。
「えっ!?…
護衛さんの1人、壁役を自称していた甘茂さんに私は駆け寄る。
「お嬢様…お逃げ下さい…」
肺の中の空気を辛うじて絞り出す様な声で彼は私に笑顔を向けた。
「お嬢様…甘茂の言う通りです。ご自身の安全を!!…甘茂…オメェいいとこ持っていきやがって…許さねぇ…」
「そうです!!こんゴミなんかお気になさらずに俺と共に逃げるんです!!」
護衛としての役割を果たそうとする残るふたり(
一部声が小さくて聞こえなかったけど、各々の職務を果たす為に必死なのが分かる。
彼らの意識、決意を無駄にするのは、許されないこと…職務に対する彼らの覚悟と責任感に私は自宅に向け一歩踏み出した。
「…ごめんなさい、やっぱりダメです…」
彼らに背を向けたまま、能力の使った。
「後でどんな罵詈雑言があっても覚悟しています。バカな雇用主でごめんなさい…生きててごめんなさい…でも、私の為に人が傷つくなんて理不尽は許容できません…」
ズズズ…と、3人の護衛さんを私が生きている限り安全圏である、私の影の中に沈める。
「ウチの従業員に手を出したんです!!絶対に許しませんから!!」
黒瀬グループの後継ぎ、そして秘密結社ブラックラピッズの次次期総帥として涙を溜めた瞳で攻撃方向を睨み叫んだ。
「覚悟して下さい…人生で初めての本気です…」
公園内に無数に広がる影が音もなく動き始めた。
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「ウチの従業員に手を出したんです!!絶対に許しませんから!!」
一言文句を言ってやる。
そう思い早朝に向かった黒瀬邸。その道中の公園で目的の人物である黒瀬香紅璃を見つけた私。
そんな彼女は何故か襲撃されている。
それ以上に驚いたのは、彼女の感情を顕にした声。
姿の見えない相手を探る様に動き出す影、木々の中から慌てた様に飛び出す男。
「随分と便利な能力ね…」
そう思いながらも、その能力の攻撃能力の低さを感じ取り、加勢に入ろうと一歩踏み出したが、その足が止まる。
男が黒瀬に向け放った攻撃、それがなんなのか私のいる位置からは見えない。しかし、その攻撃を嘲笑う様に黒瀬の身体が真っ黒な闇となり攻撃を受け流したのが見えた。
そのまま闇は霧散したかと思えば、突如現れ、男を深淵に引き摺り込む。
必死に藻搔く男の武器はとんでもない重量で圧縮され、砂粒となる。
肩までどっぷりと闇に呑まれた男は、断末魔の様に叫んだ。
「ブラックラピッズ!!これで終わりではない!!我ら『イトスギ』は、いつだってお前たちを狙う!!これは終わりではない!!始まりだ!!我ら『イトスギ』の世界征服、その始まりに過ぎないのだ!!」
そう言い終わると同時に男は闇に呑まれた。
黒瀬香紅璃…彼女の能力を目の当たりにし、背筋に冷たい汗が一筋流れた。
強い…想像の何倍も…
それと同時に引っ掛ける言葉。
『イトスギ』と『ブラックラピッズ』。
そのふたつを探る必要がある。
そうヒーロー、レインボークリスとしての直感が働いた。
「黒瀬…アンタ何者なのよ?」
私は気配を消して彼女を見つめていた。
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