第97話 総帥は伊達に総帥じゃない

 『百道のプリン』は大盛況。

 耐えぬ人集りと喧騒。

 普通に考えればありがたいことなのだが、マイクやカメラを掲げたそれらは、営業妨害以外の何ものでもなかった。


「どうしよう…」

 開店することさえ出来ずにいる現状にそんな言葉が漏れる。

「もういい…全部消す。跡形も無く消せば映像も残らんだろう。」

 現状で最も動いてはいけない妻が額に青筋を浮かべ拳を握ってそう言った。

「絶対ダメ!!洒落にならないから!!」

 そんな妻を必死に止める。

 本当に洒落にならない。妻が本気でそれをするつもりなら、撮影隊どころか、北半球が消し飛ぶ。

 取材陣の前に妻を立たせることだけは避けねばならなかった。

 主に地球の為。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「さっそくの襲撃か…」

 日も沈みかけた頃、会社から自宅へと向かう秘密結社ブラックラピッズ総裁である黒瀬堰臣の乗る車を、複数のバンが囲んだ。

「『イトスギ』…ブラックラピッズを舐め過ぎじゃないかい?」

 車中の堰臣は、車内から飛び出した部下たちを見ながら、自身の能力を操る。

 自身の乗る車、囲むバンの影から漆黒の怪物が創り出される。

 車外から聞こえる悲鳴に堰臣は静かに心中に炎を灯す。

「まるっと頂くよ…『イトスギ』の部下も、その歪んだ地盤も…」


 影の生物と部下に捕らえられた敵。

「殺せ!!」

 と叫ぶ彼らに、

「殺さない。そんな無駄なことはしない。」 

 堰臣は柔和に言った。

「君たちは何も成せていない。捕虜として少し僕の元にいてもらうよ。」

 その笑う堰臣に、その部下たちも笑う。

 

 その不気味な状況に、捕虜となった者たちは恐怖に震えた。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「凛樹…アンタどうするつもり?」

 メディア出演を果たした私、そんな私は注目の的で、引っ切り無しに来る同級生や後輩たちに生徒指導部。

 説教と称賛、羨望と嘲笑の波をヘラヘラと聞き流した私と共に帰路につく大椰はそう言った。

「どうもこうも、なるようにしかならないっしょ~。」

 笑いながら大椰の背中を叩く。

 ママ譲りの恵まれたこの身体。そんな私よりも遥かに高い2メートルに迫る大柄で筋肉質な大椰。

 中学校に入学したばかりの頃、大椰はやれ武生の娘だの、気に入らないだので、しょっちゅう私に突っ掛かってきた。

 そんな大椰と致し方なくステゴロで決着をつけて以降、親友となっている。

 そんな大椰は、そもそもが恵まれた体格をしているうえに総合格闘技を身につけ、身体能力を飛躍的に上昇させる能力持ちで、滅茶苦茶な馬鹿力を発揮するストロングスタイルの格闘家だ。 

 

 そんな大椰は、実は滅茶苦茶真面目で気弱な優等生なのだが、何故か私のママに憧れ、不良少女を目指している。

 私に突っ掛かっていたのも、ママに憧れるが故の中学デビューだったらしい。それを言うと本気で怒るから言わないけど。

「能天気か…神娘様に迷惑かけんなよ!!」

 そんな大椰は道端の石を蹴った。

「いうてママならなんとかするっしょ~。最悪地球終わるけどね〜。」

 ケラケラと答える私に、大椰は大きな溜息を吐いた。


「多分、帰ったら家大変なことになってるぞ。」

「それはそれ、今が楽しければそれで良しだって!!」

 そう言って大椰の手を取り駆け出す。

「とりあえず遊ぶ!!それが1番っしょ~!!」

「やめろ!!みんな見てるだろ!!」

 注目を浴びることに顔を紅める大椰。

「流石私〜!!みんな私見てるね〜!!ヤバスギ!!やっぱ私輝いてるぅ〜!!」

「自惚れんなバカ!!」

 そんな私の頭を大椰が叩いた。


 



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