第94話 (一方的で重過ぎる)愛は勝つ
「逃げてばかり…阿賀院も大したことないんですね…」
アンキーレの盾を展開しながら距離を詰める私に対し、ひたすら能力を扱い距離を取り続ける阿賀舞風。
武生と阿賀のハイブリッドと恐れられた稀代の天才との戦いに溜息を漏らす。
武生院も阿賀院も、所詮小さな島国の武術。
その武術の粋は確かであるのかと認めるが、所詮祖国の圧倒的火力。それこそ雇用主ワンマンコマンドーの様な『弾けろ筋肉、飛び散ろ汗、鉄骨議員タフネス設計』というわけではない。
全てを圧倒するパワー。それが祖国の求めるヒーローだ。
華がなければならない。それに絶望私であり、武生院の円錐の動き、攻防一体の動きは好意的だったが、阿賀舞風の逃げを前提の戦い方は受け入れ難い。
「卑怯卑劣は受入れませんよ…」
更に詰め寄る。
「分かってねぇのぉ…正義もクソもねぇんじゃ…」
そんな私の上を舞う彼女。
「勝った方が正義、勝者が全て。
盾の隙間で狙う鎌鼬。集約した一点突破の閃風が私の足首を切り裂いた。
「
風を使い、盾の隙間に周囲の石や砂、草に枯葉、あらゆるものを押し込む彼女。
「分かりやすい…嫌いですね、アナタ。」
私はアンキーレの盾を全力で展開し彼女に突進した。
彼女は背後を狙っている。私の能力は半円、全てを覆うことは出来ない。
故にわざと隙を与えた。
そこに集中させる為に。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
掛かった。
変な女の突進に勝利を確信した。
アイツは俺が背後を狙っていると思い込んでいる。それは当然の戦術。
だが、それは誰でも予想出来る戦い方。
俺は違う。勝つためならなんでもする。
「神也兄ぃ!!」
兄の名を叫び、
「舞風?」
驚く兄の唇を奪った。
「な、なにしてんだ!!泥棒猫ぉっ!!」
奴の動揺を生み出した。
「悪ぃのぉ…ウチの種馬兄ぃが。俺も兄ぃに種付されてのぉ…」
ニヤリと笑った。
「巫山戯やがってぇ!!」
決死の表情で拳を振るったアイギス。
そこに能力も理性もない、故に阿賀の武術には格好の餌時。
「悪ぃのぉ…全部嘘じゃ…」
私は一撃必殺の拳を撃ち抜いた。
「女の執念は怖いのぉ…」
頬を伝う血と傷。
必殺の拳と同時に放たれた拳に敬意と恐ろしさを感じる。
「神也兄ぃ、ご愁傷さまじゃ!!」
この義姉とは金輪際関わりたくない。そう思いバイクに飛び乗った。
「舞風!?」
「甥か姪が産まれたら教えてくれりゃええけぇ!!俺ぁそいつ嫌いじゃ!!」
エンジンを掛け最高速で武生院を駆け抜ける。
「神娘姉、離婚してくれんかのぉ…」
最愛の姉の元にバイクを走らせる。
「神也兄ぃはもうダメじゃ…アイツヤベぇんじゃもん…」
アイギス・シュバリエ、最強の盾と称された異国の元ヒーローに得も言われぬ恐怖を感じた。
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