第86話 ゴールド免許
「よ、よく来たのぉ…舞風ちゃん…」
単車のエンジンを響かせながらやって来た娘に、ぎこちなく対応する。
「久しぶりじゃのぉ…クソジジィ…」
ヘルメットを取りそう言う娘は、長女である神娘がグレる原因となったわしの浮気、その相手との間に産まれた子。
当時はいろいろとあったが、今は子どもたち同士は姉妹、兄妹として良好な関係を作っている。
特に舞風は神娘(グレてた時代)に対して異常なまでの尊敬と敬愛、憧れを抱いている節がある。
そんなグレにグレてた神娘に憧れた舞風もまたグレた。
大学を出た後、就職したがすぐに暴力事件を起こしクビ。その後複数のバイトをするがその全てで暴力事件を起こしクビになった。
今はバイクを乗り回し、喧嘩か酒かと遊び呆けている娘は、貞操観念も緩く、行きずりで男遊びや小遣い稼ぎをしているとも連絡を受けている。
そんな奔放な娘に親として向き合う時が来た。
「舞風ちゃん…」
「クソジジィ、小遣い寄越しぃ!?あとタバコ代と酒代…ガソリン代もじゃ。」
豊満な胸を押し付け、アームロックを掛ける我が娘。
「うん…払うから…払うから離してくれんかのぉ…」
もうこの子は手遅れじゃ…
悲しいがそう悟った。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
「退院かぁ〜…」
看護師から送られた花束を手に私は呟く。
「良かったねぇ…凛樹ちゃん…」
車椅子に乗るお婆ちゃんがそう泣きながら言う。
「若い子は元気が1番よ…」
そう呟く杖をついたお爺ちゃん。
「泣かないでよ〜、帰り辛いよ~。」
そう笑う私に、入院患者たちの潤んだ瞳が向いた。
「ごめんねぇ…凛樹ちゃんが来て、死ぬのを待つだけの退屈な入院生活が楽しくってねぇ…」
私の悪戯に加担してくれたお婆ちゃんが涙を拭いながら言った。
「また遊びに来るから大丈夫〜!れーちゃんもまだ入院続くみたいだし〜!」
そう笑う。
「お母さんが迎えに来てるよ…」
看護師さんも泣いていた。
「凄く怒ってたわよ…」
看護師長さんも泣いていた。泣きながら伝える内容じゃないよね?
「またすぐ戻って来るかもね!!」
ただでさえ、ママの折檻によって1日伸びた退院予定日。
しかし、退院直後に再入院させられるかもしれないらしい。
「私なんかしたっけ~?」
思い当たる節は1週間の入院で宿題を1日分も終わらせていないのと、入院病棟で夜中のゲリラパーリーナイトを繰り広げ厳重注意を受けたり、ヒーロー協会の職員とじゃれ合ったり…
思ったより思い当たる節がある。
「ヤバいねぇ〜、殺されるかも〜…」
窓ガラスを突き破り、私は脱走を図った。
「ごめんママ!!」
「テメェの行動なんぞお見通しなんだよバカ娘ぇ!!」
すぐに捕まり、車に投げ込まれた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
「神娘…本当に大丈夫?」
地上最強と恐れられる存在とは思えない程、緊張した表情の妻にそう言う。
「し、心配いらん…私はゴールド免許だ…」
震える手でハンドルを握る妻。
「ゴールド免許って言うけど、神娘運転するの教習所以来だよね…」
「大丈夫…大丈夫だ…」
そう深呼吸しながら言う妻に不安しかない。
「おい、乱鶯…エンジンはどう掛けるんだ?」
ダメだ…妻の免許は紙切れ以下だ。
「僕が行くよ…だから神娘は店番を…」
「大丈夫だ!!私は凛樹の母親だ!!」
意地を張る妻。
「ほら、掛かった!!」
ブレーキを踏みながらボタンを押すだけの簡単な作業を誇らしげに言う妻。
「見たか乱鶯!!私だって運転の1つや2つ、容易にやれる!!」
そう宣言した直後、車庫の柱に横っ腹をガリガリと音を立てながら引っ掛け、神娘の運転する車は出発した。
「修繕費…」
傷ついた車庫と車体を思い、僕は膝を折った。
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