第81話 神娘さんじゅうはっさい

「ママと凛樹お姉ちゃん、今日帰って来ないの?」

 そう心配そうに言う氷華。

「大丈夫、すぐに帰ってくるから。ママを怒らせない様に良い子にしてようね。」

 そう氷華の頭を撫でる。

「静か…なんか寂しい…」

 レトルトのカレーを口に運びながら、氷華は涙ぐむ。寂しさと不安が娘を襲っているのが分かる。

「大丈夫、パパがいるよ。」

 そう娘に言った。

「ママの方が強いもん…」

 ワンワンと泣きじゃくる氷華。ますます不安にさせたらしい…

 僕っていったい…

 僕も泣きたくなった。


「ママ、本当に帰って来ないの…」

 お風呂に入れ、寝付かせ様とベットに入れ時、氷華はもう一度不安そうに言う。

「大丈夫、明日には帰ってくるから。」

 頭を撫でながら毛布を掛ける。

「朝ご飯、ママの朝飯がいい…パパのご飯ヤダ…」

 そう言って寝息を立てた氷華。


「ごめん…」

 なんか、凄く辛くなった。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「ママ〜、お腹空いたぁ~甘いの食べたい。あとね~、背中汗かいて気持ち悪いの。それと〜…」

 元気いっぱいにあれこれ要求し始めるバカ娘。

「凛樹…」

 私は青筋を立てながらベットの上で我儘を言う娘を見ていた。

「そうだ、ママ、またおっぱいおっきくなったから〜新しいブラ買いたいんだ〜、今月お小遣い多くしてよぉ~。」

 検査を終えて以降、絶好調といった様子のバカ娘。

「あれ…ママ〜?私病人だよ~…」 

 拳を固めた私に気付いたのか、凛樹は顔色を悪くしながら言った。


「凛樹…オメェ…私と乱鶯がどれだけ心配したと思ってんだぁ!!」

 そんな娘に、私は拳骨を落とし抱きしめた。

「本当に大丈夫なんだな…」

「ごめん、ママ…」

 泣きじゃくる娘からは、申し訳なさと悔しさが伝わる。


「鍛えなおしてやろうか…」

「それはマジ勘弁。」

 向上心の低い娘に私は呆れと安堵の溜息を吐いた。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「たっだいまぁ~!!」

 登校前、朝食を済ませている頃に戻って来た人物は、酒臭い息を吐きながら、勝手に居間に入って来た。

「光〜、氷華ぁ~久しぶりじゃのぉ~。」

 千鳥足で僕たち兄弟に絡む酔っ払い。

「舞風おばちゃん、お酒臭い…」

 氷華が不快感を顕に鼻を抑えた。

「誰がおばちゃんじゃ!!俺ぁまだ23歳じゃぁ!!神娘姉さんじゅうはっさいと違うけぇの!!」

 酒瓶を煽り、空になったそれをテーブルにドン、と置きながら言う叔母。

「知っちょる?神娘姉、岩穿が産まれた頃に自分のこと永遠の18歳って言いよったんよ!!そん時三十路やのに!!俺、そん時ぶち笑ったんじゃけんど、死ぬほど殴られたんじゃよ!!神娘姉ってあがぁにしちょるけんど、ぶち乙女じゃけぇの。」

 ケラケラと笑う叔母の後頭部に伸びる手。


「舞風ぁ!!テメェ、朝っぱらから酒クセェな!!ウチのガキ共になに法螺吹いてんだぁ!!」

「ギャァァァ!!ごめん、ごめんなさい、神娘姉!!ゲロでちゃうけぇ!!マジごめんなさい!!」

 泣き叫ぶ叔母と相変わらずの母親のやりとり。

「「「ご、ごちそうさまでした…」」」

 僕たち兄弟は、何も言わずに食事を終えた。

「おい、ガキ共…こいつが言ったの、全部嘘だからな!!」

 叔母を気絶させて言う母。

「うん、分かってるよ…母さん…」

 真っ赤な顔をした母に、僕はそう答えた。

 

「神娘さんじゅうはっさい…」

 無意識に呟いていた。

「岩穿!!オメェ二度とそれ言うなよ!!」

 母の強烈な拳が突き刺さる。

「38歳はババアじゃねぇし!!若ぇんだよ!!ガキになにが分かんだ!!乱鶯だって、今も…」

 ブチ切れていたかと思うと、父を見てクネクネと女の顔をする母。

 

 もうやだ、この家族…

 そう思いながら意識を失った僕は学校を休むことになった。






 

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