第29話 固いプリンが好きな人だっている
返り血に塗れた少女に僕はプリンを運ぶ。
「お、お待たせしました…」
その時あったのは、恐怖のみ。
1人でトップヒーローもトップヴィランも蹴散らす怪物。
そんな怪物の機嫌を損ねない様に。そんな思いしかなかった。
プリンを運び終わり、急いでバックヤードに引っ込んだ僕は、ガシャン!!という破壊音に腰が抜けた。
なにか不手際があり、あの少女を怒らせたのか…
そんな恐怖に怯えながら、バックヤードから店内を覗く。
「千代田の悪魔がプリンなんか食ってやがるぜ!!」
金属バットに鉄パイプ、バールのようなもの…武装した不良集団が扉やガラスを破壊し、店内に乗り込んでいた。
「喧嘩がしたいなら、呼べばいい…逃げはせん。しかし、店に迷惑を掛けるな。」
スプーンをゆっくりとテーブルに置き、そう呟く様に言う少女。
「とりあえず、死なない程度に痛めつけてやる。」
放たれた殺気は、バックヤードにいた僕でさえ意識を失う程のものだった。
『千代田の悪魔』そんな異名を持つお嬢様学校の不良少女。
武生神娘は、この地域の不良全てと、たった1人で日夜抗争を繰り広げる、桁違いの不良少女だった。
不良の世界に現れ1年。
語られる伝説は数知れず。グッと力を込めただけで人工島を沈めたとか、パンチ一発で100人を病院送りにしたとか、信じられないものばかりだ。
そんな不良少女、武生神娘は襲撃した不良集団を殺気を放つだけでKOし、プリンを食べていた。
不良集団の襲撃時に店長が通報していたようで、けたたましいサイレン音と共に、警察とヒーローが到着した。
倒れた不良集団を確保する警官たちを意にも返さず、プリンを掬う少女。
「ご同行を…」
そう近寄った警官が泡を吹いて倒れた。
「お嬢さん…」
そう呟いたヒーローも脂汗を流している。
「襲われた。故に気を放っただけだけだ。」
放たれた殺気…誰も手出し出来ない聖域に警官もヒーローも慌てて退散した。
国家権力を持ってしても未知数の怪物。そんな少女は、
「プリンが柔い…」
そう呟いた。
「お前の出番だ。」
そう背中を押した店長。
今でも感謝してる恩人だが、同時にそれが後に独立する理由だった。
「固さ…変えましょうか?」
これが僕と神娘の最初の会話だった。
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「モフモフ…!!」
遊び終えた氷華が白い怪獣に抱き着く。
「そういえば、アンタ名前は?」
白い怪獣にそう訊ねる。
「名前…名前か分からないけど、ずっと怪獣846号って呼ばれてた。」
氷華と戯れながら、幸せそうに言うそいつが、どうしても私には悪い存在とは思えなかった。
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