第2話 いつもの朝

「ありがとうございました~。」

 住宅街にある小さなプリン専門店。

 紆余曲折を経て、ヒーロー兼プリン職人となった僕の現在の仕事の割合は、プリン屋が99%で1%がヒーローの仕事だ。

 そもそも、ヒーローとしてまともに活躍したことがない。

 『プリンの固さを自在に操る』という、プリン職人になる以外には何の役にも立たない能力な時点で、これが天職であり、定めだったのだろうと思っている。

 そもそも、底辺ヒーローである僕は、ヒーロー協会から支給される僅かな活動資金だけでは生きて行けず、プリン屋を開く前から、ヒーロー兼洋菓子店のバイトだったので、大差はない。

 そんなバイト時代から劇的に変わったのは、ヒーローとして守るべきものというのが漠然としていたのに対して、それが明白になったことだろう。

 僕の守るべきもの、それはこの店。

 そして何より、結婚して出来た家族。

 それを守る為に、日夜最強のプリンを作るべく研鑽を重ねているのだ。


 そんな僕の大切な家族の日常は、朝から大騒ぎなのがお決まりだ。


−−−−−−−−−−−−−−−−−


「起きろ!!バカ息子!!」

 我が家の朝は、愛する妻が、長男を叩き起す怒声と共にスタートする。

「うるせぇ!!クソババア!!部屋に入んなって毎回言ってんだろ!!」

 絶賛反抗期な長男の怒鳴り声が一階の居間にまで響く。

「あーあ、今日は欠席だね、お兄。」

 朝食を食べていた長女は、そんな兄の声を聞き呆れた様に呟く。

「今日一日で済むかな?3日くらい動けなくなるんじゃない?」

 そう冷静に判断するのは次男。

「ママは強いし、手加減しないから…」

 末っ子である次女がそう呟いた。


 各々、過去にお仕置きされたことを思い出したのか、ブルッと震え、顔色を悪くしている。

 我が家の最高権力者にして、絶対的支配者は母、つまり、僕の妻だ。

 母は強し。なんていう言葉があるが、彼女は強いなんてもんじゃない。

 強過ぎるのだ。

 故に時折思うのだ。

 なんで僕と彼女が結婚出来たのだろう…と。


「それが親に対する言葉か、クソガキがぁっ!!」

 妻の怒声と共に、轟音が響き、家が揺れる。

 それから数分後、妻が気絶した長男を片手で引き摺りながら居間に現れる。

「このバカ息子は、鍛え直す必要がある故、今日は学校は休ませる。」

 そう青筋を立てて言う妻に、僕の子供たちも、無言で頷いた。


 20年前起こった、史上最大規模のヒーローとヴィランの一大決戦。

 その両陣営を片手間で血祭りに上げた最強の無能力者。

 多くのヒーローとヴィランにトラウマを植え付けたその人物が、現在、僕の妻となっている。





 

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