第22話 私は役にたっていますか?
ワイバーンと聖龍が城に向かって帰る途中、《じょうかまち》|城下町では皆の喜びの声が聞こえてきた。
「聖女様、ありがとうございまう」
「騎士団長様、素敵♡」
「魔術師様ぁぁぁ結婚して」
ワイバーンに乗ったラウルを先頭にしろの屋上に着くと、ミークとオズワルドが居た。
「お疲れ様」
オズワルドが聖龍の側にやってくる。私が聖龍から降りるのを手伝ってくれた。空を飛んでいる間ミュゼァは一言も喋らなかった。だがずっと私の事を抱きしめている様に支えられてどう声をかければいいのか分からなかった。
「お初にお目にかかります、聖龍様」
ワイバーンから降りたラウルとラヴァはジッと私達の事を見ている。ミークは二人の側に行くと労いの言葉を書けている様に見えた。
私が役立たずだったって話はきっと直ぐに広まるだろう。魔物に呑まれて迷惑をかけた私。
必要だから召喚されたはずなのに、結局は役立たずの私。聖女として来たからって、無条件に強くて力が使える人間なわけじゃないんだ。
オズワルドが聖龍に
「キミは誰?前の聖女様が教えてくれたんだ。王様には別に頭を下げる必要が無いって。ボクは聖獣で聖女様を大切にすればいいって」
「……確かに俺はこの国の王子だ。今回の討伐のお礼を言いたかったんだ。ありがとう」
「いいよ。ボクは役目を果たしただけだから。それよりボクもう行くから。聖女様何かあったらボクの事呼んでね」
そう言うとバサバサと羽を動かし聖龍の森の方へと飛び飛び立った。それを見送るとライルがワイバーンを撫でながら話した。
「今日は私達も手助けが出来ずで申し訳ありませんでした。今日はお疲れの事でしょう。殿下、討伐の報告に関しては明日伺う形でもよろしいでしょうか」
「私の方がご迷惑をおかけいたしました」
頭を下げると、ラヴァが私の肩に手を置いた。
「初めての戦いでした。我々がアシストできなかったのです。謝らないでください」
てかっと光頭を見せつけながらミークが気ぜわし気に私の事を見上げる。
「ラヴァが言うならそうなんでしょう。街を守ったことには間違いありません。自信を持ってください」
「はいはい。お父様今日は帰りますよ」
ラウルがミークを引っ張って、その後ろをラヴァが付いていく。
先ほどまで口を開かなかったミュゼァがオズワルドの前に立った。
「ラウル団長の言う通り報告は明日伺います。美麗様を送り届けてきます」
「よろしく頼む」
オズワルドの雰囲気がいつもと違う様に思えた。
***
美麗を、聖女を守ると母さんが死んだときに心に決めたのに。そのために国一番の魔術師になって次代を守ると心に決めていたのに。
魔物に飲み込まれた後の様子が明らかにおかしかった。
転移移動を発動させ俺は聖龍の住む森に向かう。明らかに聖龍もオズワルドに対する反応が変だった。
「来ると思っていたよ」
先ほど城で別れた切りの聖龍は美麗と初めて会った時と同じ森の奥でうずくまっていた。母さんと一緒に来たことがある。二度目の再開は美麗と来た時だ。あの時はまだ子どもっぽさが残っていたけど、今の聖龍は今までの雰囲気とは違う何かがある。
「聖龍様申し訳ありません。俺はまた聖女を守れませんでした」
「それは同じだよ。ボクを守ってくれた聖女を守れなかった。代わりと言っては駄目だけどボクの今の聖女である美麗は守る。それがきっと罪滅ぼしになるから」
「
母さんは言っていた。聖龍はまだ子どもだから何かあったら守ってやってって。俺も母さんを守れなかった。
聖龍は月の出ていない空を見上げる。あたりが明るくないはずなのに、毛並みがキラキラとしている様に見えた。
「ミュゼァなら分かるんじゃないの。先代聖女は自分の
「どうしてそれを言ってくれなかったんだ」
「美麗が必死になっているのはきっと魔物に見せられた悪夢が現実だったんだ。異界に着て不安だった。力が使えなかったのも元々の世界に魔法が無かったのもあるけど、それだけじゃなくて不安で、不安で仕方なくてちゃんと動き出すことが出来なくなってた。ボク力を使えるようにしてあげたけど、それだけじゃない。このままいったら聖女様は美麗はきっと
聖龍が立ち上がるその雰囲気は、見ている者が呼吸さえも忘れてしまいそうなほど
「聖龍様あなたは何を知っているんですか」
聖龍が「うん~」と呻きながら目を閉じる。先ほどまでの雰囲気は無くなりいつもと同じ優しい雰囲気に戻る。
「邪気の理由は元々人間から生み出される面もあって、魔物が寄ってくるのは人が居る限り変わらなくて……。難しいね。ボクには分かるんだけど人間が分かるように説明できない。ボクたちは本能で分かっているんだ」
聖龍の瞳が金に光った様に見えた。世界創造の話は子どもの頃から聞かされていて、母さんが実は好きじゃない話だから覚えている。一人の人間に世界を守ることを押し付けているようで嫌いだと言っていたのを思いだす。
「美麗様がこのままいくと脅威になるってことですか?」
確かに力が使いこなせなくて不安になっていたのを覚えている。聖龍と引き合わせたのも力になるかもしれないと思ったから。
「彼女の闇は深い。ボクよりも君の方が心により添えれると思うんだ。頼んだよ」
「言われなくても俺が守ります」
聖龍が満足そうに頷いた。
「聖女様を守るためなら手段は選ばないで」
***
聖龍との話も終わり自室に戻ろうと魔法陣を展開した時に、タイミング悪くオズワルドのお呼び出しがかかった。討伐については明日話す予定になっているはずなのに。
断る訳にもいかず俺は、自宅でなくオズワルドの
足元から光ったと思うとそれが全身を包み、次に目を開けると見慣れた執務室に居た。この部屋の主の机の上は紙が沢山並んでおり、部屋の光は煌々とついていた。
紙の山に埋もれていたオズワルドが顔を上げる。普段は
「オズワルド、一体どうしたんですか」
普段はこれほど遅くまで仕事をしていることは無い。俺が居ない時は側近が仕事の調整をするはずだ。
「討伐から帰って来た美麗様の表情が気になってな。聖龍も何か含みがあったから……。お前ならきっと聖龍に直ぐに会いに行くと思ってそれから話を聞こうかと待っていた」
「直接、聖龍には聞きにいけばいいじゃないですか」
俺は執務室の
「聖龍は王室に仕えている訳じゃない。あくまでも国を守る者だ。言い方を変えればこの国に対して王族が不要と感じればいつでも切り捨てに来る権利がある。世界の秩序を守る者だと父上が話していた」
王族にしか伝わっていない真実。そして母さんが知っていた事でもある。世界を創造した神は天界から眺めているのだ、人々の営みを。
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