第11話 召喚されたけど、文字読めたのよね。そして魔法の使い方を早く知りたいな
オリビアが立ち去って、二日間は「いきなり異世界に来たんだ、ゆっくりしてくれ」とミュゼァから連絡があった。
私は何をしていいのかわからなかったので、与えられた宮の中を一日かけて探検したり、その中で見つけた、書庫から本を借りてきて呼んだりしてみた。
言語は異世界に来たはずなのに、スラスラ読める特殊能力付きで助かった。
ララはその間も私の世話係として、一日中一緒にいてくれた。
寝室の隣にあった、広いリビングで私はグダグダしていた。
「ゾワゾワするの、どうにかならないかしら」
遠くに感じる、何か怖いものを、押さえつけている何かがある。清らかなものが、弱ってきているような、そんな気がした。
用意された宮は、日本で質素に暮らしていた私にとってはとても広くて、心安らがない場所になっている。ララ以外の使用人は、今後増えていくんだよね。こんなに広い場所を一人で掃除をさせるのが申し訳ない。
「美麗様はすでに聖女としての実力を開花させているのですね!!」
お茶を入れながらニコニコしているララ。
「そういうんじゃないんじゃないかな?」
感じることができるだけ、のような気がする。実は夜一人寝室で魔法を使ってみようとあーえもない、こーでもないと頭を悩ませていた。
「いえ、結界が見えている時点ですごいです。何もしていないで見れるのが才能です。わたくしは魔法の才能が無いので、お手伝いできることが合ったらおしえてくださいね」
一人でお茶をするのが嫌だと駄々をこねてからは、「二人でいる時ならいいですよ」という条件付きで、一緒にお茶を飲んでくれる。メイドとして私に仕えてくれている手前、他の人の前では出来ないらしい。
二人で過ごしているのも広いリビングのドアがいきなり開く。
ララが立ち上がるよりも先に、部屋にミュゼァが入ってきた。
「美麗様はここに居ますか」
初めて会った時と同じ装いで、マントを着ている。涼し気な横顔が私好みだなんて、いきなり言ったら驚かれるかしら。
私は飲んでいた紅茶のカップをテーブルに置く。ララと向かい合ってお茶を飲んでいたけどミュゼァは気にしている気配ではない。
「なんでしょうか?」
「早速で悪いが、明日から、色々特訓してもらうことになった」
「わかりました」
休んでいろと言われたけど、やっぱり私が異世界に呼ばれたのは急ぎの問題が山積みだったって事よね。ララは自分の飲んでいたカップなどを慌てて片づけ、ミュゼァに空いている椅子をすすめる。
「申し訳ございません。ただいまお茶を用意いたします」
「急いでいるから気遣い無用だ。俺が思っていたよりも邪気の溜まり方が早くて、聖龍だけでは限界を迎えてしまうかもしれない。母さん、前聖女が言っていた問題が起きる兆しがまだはっきりとはしていないけど、美麗様には早急に魔力の事を覚えてもらう必要が出てきてしまった。すまない」
「いいえ。私が呼ばれた理由はそこにあるのでしょう?魔法を使ったことが無いけど、頑張ります」
不安が無いわけじゃない。だけど、目の前にいる国一番の魔導士が傍に居てくれると言う安心感がある。
「合わせて、オリビア様が美麗様に淑女としての作法などを教えたいとも言っていたから、忙しくなると思うが、無理なら断ってくれていい」
私がここに呼ばれた理由。必要とされるからには、応えていかないと、必要じゃないって言われたら、多分私は耐えられない。
ここに居る意味が無くなってしまったら、元の世界にも戻れないと言うのに、どうすればいい?不安を口に出せたなら気持ちも楽になれるんだろうけど、ギュッと、胸にしまい込む。
「休みの日を入れてくれれば。魔法もイマイチ分からないし、宮に合った本を読んでも理解は出来なくて」
魔法の種類は生活に直結したものから、戦いに準じたものまで様々で文字だけではどうしようもできない。
「本が、読めたのか」
「言葉も文字も、異世界転生してきましたけど、問題ないんですよね」
これぞ所謂チートスキルになるのかな。言葉も文字も理解できなかったら今以上に悲観的になってしまっていたかもしれない。
「そうか。それなら色々教える手間が省けるかもしれない。明日、早速魔力、魔法について勉強しよう。迎えに来る」
突然部屋に入ってきた勢いと同じ勢いで、ミュゼァは私の返事を待たずに部屋を出て行った。
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