第10話 突然のお茶会始まる
魔力量などの検査後は、王宮の中で、歴代の聖女が住まう「花の宮」を一時的な住まいとして貸してもらった。王の閲覧の間と、ミュゼァなどの魔術師の研究所までの移動魔法の魔法陣が形成されているらしく、魔力を少し注入すれば移動できるらしい。
メイドは、湯あみを手伝ってくれたララが配属された。他の人員は追って送るとミュゼァに言われている。
日本でアパートに一人暮らしをしていた時に比べたら、通された部屋が、中学校の教室くらいある。
「ララ、こんなに広い部屋一人でどうしろって言うの?」
大きな窓があり、月明かりが部屋を照らしていた。検査などをしていたら、もう、太陽はとっくに隠れてしまっていたのを思い出す。
後ろに控えていたララが申し訳なさそうに、その場にお辞儀をする。
「寛ぐスペース、狭かったですか?」
「違うわ!むしろ広過ぎよ」
広すぎて落ち着かないと言うのを、身をもって体験することになるとは。どうにかしてもう少し狭い部屋にしてもらえないかな。
天蓋付きのベッドはキングサイズ。私一人で寝るには大きすぎるし、鏡付きの化粧台。入口を入った反対側には更に奥へと続く部屋が見える。中央には、透明なテーブルと、二人掛けのソファーが向かい合う様にして置いてある。
調度品は最低限生活をするのに必要な物しか置いていないけど、クリーム色をベースにしていて落ち着いた色合いだ。
「お部屋の詳細は、後日美麗様のお好きなものを用意するようにと言われております」
「……分かった多分それには拒否権は無いと思うので、後で相談に乗ってね」
多分私の生活費って、国費とかで賄われるんだよね。そうなると、無駄に高い物を買うのがとても心苦しい。まだ何の成果も出してないんだもん。頑張らないと。
「今日はお疲れでしょう。お休みください」
「ありがとう。今日はもう何が何だか分からないわ」
召喚されて、自分が聖女だと分かったから、後は、この場所で自分のやるべきことを見つけていくしかなくて。
聖女であるプレッシャーに負けてしまいそう。
「何かあったら直ぐにベッド際にあるベルを鳴らしてください」
部屋の中にとてもいい匂いがしてきた。段々と思考が緩くなっていく。ララの言う通りに服を着替え、ベッドにもぐりこむと、気が付けば、翌朝、ララの悲鳴で目を覚ました。
「美礼様ぁぁぁぁぁ」
窓から差し込む太陽の光に目を覚ましたけど、もう少し寝て居たいなとモゾモゾしていたかったのに。
第一印象がとてもかっこいいお姉さんだったのに、こんなに慌てるんだ。
私は眠い目をこすりながら、ベッドの上に起き上がった。
「どうしたの、慌てて」
「オリビア様がお茶会を本日開くので、参加を希望すると連絡が着ました」
「オリビア様?」
この世界に来て直ぐ、誰が私をお茶会に誘うと言うのだろう。これからの聖女訓練もあるから、ミュゼァから連絡が来るかなって少し期待していたのに。
「オズワルド様の婚約者です。どうしましょう、拒否はあまりしない方が良いかと思います」
「それよりも、どうしてお茶会に」
私まだ顔を合わせていない相手をお茶会に誘う理由が分からない。もしかしてオズワルドが私の事を気にして、同性の人を紹介してくれたのかな。
「わたくしには、分かりませんが、お誘いは断らないで欲しいとも伝言があります」
「私、マナーとか何も分からないんだけど、いいのかな」
「それを承知ではないのですか?美麗様は昨日召喚されたばかりですよ」
ララは、私を化粧台の前に移動させながら話を続ける。
「大丈夫です。何かあったら、オズワルド様にお伝えすれば」
「心配だけど、ミュゼァ様から連絡が来たりはしていないのよね?」
ララは私の髪を梳きながら、首を横に振った。
「二日くらいはゆっくりして欲しいと言ってました。オリビア様のお誘い、断りますか」
「行くわ。この世界の事知らなきゃいけないもの」
召喚されて、水晶玉に触れた直後から、遠くの方からぞわぞわした気配を感じるようになった。そして一つ大きな、力が、ぞわぞわしている気配と対立しているような感じがして。
多分、対立しているのが、国を護る聖龍だと思う。聖女が不在だから、頑張って国を護ってくれている。役立たずとは言われたくない。
「分かりました。美麗様が参加されると言うのでしたら、後、三時間で支度が整う様に頑張りますね」
***
オリビアとのお茶会は、朝の10時からで、ララは連絡が来て直ぐ身支度を整えてくれたから何とか間に合った。
コルセットをした方がスタイルが良く見えると言われたけど、今まで付けたことが無い物をして、お茶会中に体調不良になりたくなくて、私はゆったりとした若草色のワンピースを選んだ。
開催場所はオリビアの屋敷で、迎えの馬車まで用意してもらった。
屋敷に着いてすぐ、流されるままにお茶会の準備がされている庭に通されると、腰まである金髪の髪はフワフワとしたウェーブがかかっており、その髪をハーフアップにしている。目と胸がとても多きい私と同い年くらいの女性がお辞儀をする。
「急な招待に応じていただきありがとうございます。ミュゼァから話を聞いてどうしても急ぎでお話をしてみたくて」
彼の名前が出てくるとは思わなかった。オズワルドの婚約者だから、ミュゼァとも面識があるのかな。
「昨日召喚されたばかりで、何も分からない私ですが、招待いただきましてありがとうございます」
何も分からないのに、どうして呼んだのかな。
「立ち話も何ですしおかけください」
通された庭には、大きなパラソルの下に、テーブルが一つ。椅子は向かい合う様に設置してある。オリビアの使用人が五名ほど控えている。
私は、付いてきてくれたララだけ。
テーブルは丸く、二人分のお茶と、ケーキや焼き菓子が何種類か用意してあった。
「何が好きか分からなかったから、あまり用意できなかったので、お好きなものが合ったら教えてくださいな」
目が笑っていない、オリビア。初めて会うのに、何かしたかな。
緊張しながら、用意された紅茶を飲む。アールグレイに似ている匂いがする。この世界も地球に似た飲み物が多いのかな。
私が紅茶を飲むのを見つめていたオリビアは、テーブルに身を乗り出すようにして、質問をしてきた。
「単刀直入に聞くわ。オズワルド様のことどう思っているの」
頬を赤く染め、目元は潤んでいるのか、揺らいでいる。
飲んでいた紅茶を吹き出しそうになりながら、私は、素直に思ったことを口にする。ここで嘘を付いても何の得も無いと思った。
「かっこいいと思います」
見た目はとてもいい。王子様と聞いたら、飛びつく人が多いのかもしれないけど、私は王妃だなんてなれる自信が無い。
オリビアは、私の返答に、口を一瞬きつく結んだ。
「……私から彼を取らないで」
「勘違いしてるかもしれないですけど、私は王妃の座とか狙ってませんから」
異世界に着て直ぐに恋しようだなんて考えられるほど、私は恋愛脳じゃない。聖女として立ち回れるかの不安の方が大きいと言うのに。
「本当ですの?」
オリビアの揺れる瞳に、羨ましくなってしまう。私はこの世界で、誰かを愛することができるのかな?聖女として求められている姿をやれるのかな?
不安を抱えているのを、口に出せない、弱い私。少なくとも、不安を口に出せる程の勇気はない。
「はい。まず、私は聖女としての結果を出さないと生き残れませんから、それどころじゃありません」
嘘は言ってない。
「分かったわ。全力で私が貴方を淑女にするためにサポートいたしますわ」
「どうしてその結論になるのか説明を求めても?」
「大丈夫ですのよ。王妃教育は終わっておりますし、妹が欲しかったから正直嬉しいのです」
来た時とは表情が全く違う晴れやかなオリビアの迫力に押されてしまう。
「ありがとうございます」
「そうなったら早速色々な所に相談しに行かねばなりませんね」
オリビアが立ち上がると、後ろに控えていた使用人たちも立ち位置を変える。二人はオリビアを守るように横に着いた。
「そんな、慌てなくて大丈夫です」
まだお菓子も食べてないんだけどな、と言おうとしたら、キラキラと光る髪の毛をオリビアは揺らした。
「全は急げと、賢者様の言葉が残っているのです」
賢者、絶対に私と同じ日本人だよね。後で書物とか残っていないか調べないと。
「そうだ。聖女の正装を作るのにあたり、寸法だけ早めに知りたいとミュゼァが言っていたんだわ」
「正装あるんですね。楽しみです」
よく異世界転生で聖女が着ているような可愛い物が着れるのかな。
「可愛いですわよ。とても」
「そうですか」
「女性の花の時間は短いのですよ。恋も聖女としての任務も両立させてこそですわ」
こうして、突然開かれたお茶会は、オリビアが「美麗様を全力でサポート致しますわ」と言って走り去って終わってしまった。
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