第7話 前聖女の息子と新しい聖女
オズワルドは落ち着いた声音で、私が召喚された経緯を教えてくれた。
曰く、先代の聖女様が残した遺言に、聖女を異界から呼び寄せ、来るべき危機に備えよとのことだという。
ミュゼァは先代聖女の話がでるたびに険しい表情をするのは、自分のお母さんの話をされるのが恥ずかしいのかな。私も身内の話をされるとむず痒いから、きっとそうだよね。
オズワルドが、申し訳なさそうに言葉を続ける。
二人は、私の様子を伺っているようにも思えた。
「いきなり呼ばれて、救ってくれというのもおこがましいかもしれない。ほとんどの予言が当たっていた先代の言葉を無視する事ができなくて、君を呼び寄せた」
「異世界に憧れがあったので、別にそこは怒っていないんですけど」
「異世界に興味とな?」
ミークが不思議そうに首を傾げる。並行世界の考えとかここにはないのかな。好きな小説でパラレルワールドの設定とかを読んでいたので、私は大好きなネタなんだけどな。
「簡単にいうと、違う世界が存在しているのを認めている、考えって感じです」
あったら良いなが、実現して私は大喜びだけど。
オズワルドとミュゼァも「ほぉ」っと言っている。珍しい考えなのかな。
「美麗様が困ってはいても、割と落ち着いている理由がわかりましたぞ。感激いたしました。大抵の異世界から流れ着く者は受け入れられない事の方が多いですが、我が国にに来て貰えたこと、心より感謝します」
「ミーク感激しすぎだ。俺からも詳しくこの国のシステムを教える」
真剣な表情でミュゼァが、これからの説明をしてくれた。
「この世界では子供は六歳になると自分の持っている魔力の質の検査をする儀式がある。神殿に行って祈りを捧げるだけだから、とても簡単。美麗様の魔力量と得意魔法の性質を調べしせてもらう」
普段着慣れないドレスにソワソワし始めた。初めは滅多に着られるものじゃないから喜んでいたけど、絢爛豪華なドレスよりも司祭服のようなものを着たい。胸元の大きく開いたドレスでスースーする。
「何かの間違いで、紋様が出たりは」
小さな希望に縋ってみる。信頼されても自分がどこまでできるか分からない。平和な世の中を生きてきた。そんな私が、人々を助けるために行動ができる自信がない。
胸元を押さえながら、私は1%の希望に縋ろうとする。
「紋様が出ている時点で聖女である事は間違いない。プラス結界が見えていたとなると、王直属の魔術師並の魔力を保有している可能性がある」
ミュゼァの声が硬い。ミークもその声に頷いている。オズワルドがどこか悲しそうな瞳をしていた。
ミュゼァが、指を鳴らし、机の上に世界が映し出された。黒いモヤがかかっている場所もある。
「邪気が活発化していると言ったと思うが、昔世界が混沌としていた時の光と闇の関係が影響していてな。綻びから、邪気が顔を出し始めたいるんだ。魔法が使えれば払えると言うわけじゃなくて、聖魔法の使い手と、聖獣でしか払えない」
もう一度指を鳴らすと、地図は消える。
神話でも世界の始まりはカオスで、光と闇があったとか無かったとか、その辺は同じみたいだ。
「美麗様の居た世界には魔法は存在していないのでしたか」
ミークの眉毛がぴくりと動く。他の二人も私の顔をじっと見つめてくる。
「魔法はなかったですね。超能力とか霊感っていうのはありましたけど」
「なんですかな、それは」
「どちらも人外の力で封筒の中身を見たり、物を宙に浮かせたり、霊感は幽霊が見えたりするイメージですかね」
「それもまた、興味深いですな」
「私はどっちの力もなかったので、詳しくは分からないですけど」
コンコン。
部屋の扉がノックし、ララが姿を表す。
「殿下、そろそろ城に戻って仕事をしてくださいとの伝達がまいりました」
「そんな」
「俺が近くにいれば大丈夫だろう」
ミュゼァの言葉に顔が熱くなるけど、単純に私を守ろうとしてくれているだけと言い聞かせる。男性に免疫が無さすぎたツケが来るとは思ってなかった。
「ミュゼァは魔法のことになると周りが見えなくなるのが、心配なんだけど」
「力を使いこなせない人にいきなり魔法を使わせたりはしない」
天井を見上げたミュゼァ。
「召喚しれた瞬間から、大気が安定しているのは、聖女の力がある証拠。調べるのもそれを信じないヤツを黙らせるためのパフォーマンスに過ぎない」
オズワルドが、苦笑いしている。
「それ、本人の前で言う?」
「目に見えないものを信じろっていうのは難しい。何より生まれた場所で魔法が無かった美麗様にはこれから血の滲むような努力を最短でやってもらわなければならない」
見目麗しいミュゼァは思っていたよりもスパルタですか?
私の視線に二人とも視線の逸らした。
力を持ってるならちゃんとやりますけど、ちょっと色々確認したいことが多いんですけど??
***
結局、オズワルドは私の検査に付き合いたかったみたいだけど、執務が滞ってはいけないとの理由で、同行しないことが決まり、ミュゼァと二人きりで行くことになった。
ミークは見届けたかったみたいだけど、ララに「聖女様の住まいなどの手配をしに行きます」と強引に連れて行かれてしまった。
移動の時はやっぱり瞬間移動。魔法の適正があったとしたら、私もこの魔法を教えてもらいたいって密かに狙っていた。
「召喚されたことは国中に知れ渡っている。身を守るためにも、今は極力人に合わない方がいい」
「それって?」
「異界の力に頼りたくないっていう連中がいるって言う事。美麗様そういう奴らをギャフンと言わせてやりましょうね」
先代聖女の子供と言っていた。挑戦的な佇まい。私の力が周囲に納得なれなかったら居場所が無くなってしまう。
「ありがとうございます」
「血の滲むような努力になるかもしれないんだぞ?」
「力を持つものの定め、ですよね。召喚されたからにはちゃんと使命を全うします」
知らない土地で、必要とされてるなら、それを現実にしたい。元の世界に戻れないのに、居場所を自ら壊すことはすべきじゃない。
「でも、修行はお手柔らかにお願いします」
ミュゼァは私の言葉にどこか嬉しそうに笑った。
「手加減できる分からないけど、守るとの約束は絶対に守る。聖女としての仕事についても今日の検査が終わったら後でみっちり教える時間を作る」
前聖女の子供と言っていたから、身近でそれを見てきたということ。
私は前聖女と比べられることになるのかな。
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