【第一部完結】異世界帰りの召喚士、悪霊祓いのお手伝いはじめました!
孤兎葉野 あや
第1章 悪霊祓いの始まり
第1話 初めての悪霊祓い
「いい? ここから先は危険地帯よ。
悪霊の力で、どんな影響があるか分からないわ。」
彼女が生まれ育った神社の巫女装束を纏い、気合十分といった様子だ。
「これは、守りの御札。
霊的な攻撃から、多少は身を守ってくれるから、持っておくといいわよ。」
差し出された手には、少し大きめのお守りといった雰囲気のもの。
確かに、力が込められているのは私にも分かる。だけど・・・
「・・・大丈夫。自前で何とかするから。」
そう答えると共に、温かな光が私を包んだ。
「あっ・・・! あの時の光。
私のより便利そう・・・いや、なんでもないわ。
本当にいいのね。じゃあ、行くわよ。」
つんとした顔で、そっぽを向かれてしまった。
いや、分かってはいるのだ。この幼馴染が、私を心配してくれているのは。
だけど、胸の奥のほうから、
『アカリ、言いにくいのですが・・・
それを身に付けると、干渉してしまいます。』
と、声が聞こえてくるので仕方ない。
これでも、異世界に呼ばれて、戦いを経験してきた身だ。
今の言葉は、私が最も信頼するものだし、
自分の調子をわざわざ崩した状態で、未知の敵の前に立つことが、
どれほど恐ろしいかは肌で分かっている。
・・・でも道すがら、美園にフォローは入れておこう。
「確かに、嫌な感じがどんどん強くなってくるね。」
待ち合わせた町外れから、草の生い茂る中を進むごとに、
空気の重苦しさが増してゆく。
異世界でも、強い力を持つ存在と相対する時には、
よく経験したことだ。
「分かってるならいいわ。
・・・これ以上、何もせずに近付くのは危ないわね。」
美園が地面に御札を並べ、
辺りを包む重苦しさとは別の領域が、広がってゆくのを感じた。
『アカリ、力を少し借りますが、護りを強めます・・・』
あっ、やっぱり干渉するのね。
これが噂に聞く、フレンドリーファイア・・・
さて、悪霊というものに関わるのは初めてだけど、
自分の縄張りを侵す存在が現れたなら、攻撃してくるのは想像に難くない。
「・・・来たわね。」
美園が鋭い視線を前方に向ける。
その向こうから、ずっしりと重い気配を振り撒くものが、ぬるりと現れた。
「私がやるから、
口にしながら、美園が再び詞を唱えると、
数枚の御札がふわりと宙に浮かぶ。
「悪霊よ、消え去りなさい。」
その言葉と共に、夜の空気を裂いて前方へと飛んだ御札が、
悪霊を封じるように貼り付いた。
「・・・!!」
あれにどこまで意思があるのかは分からないけれど、
嫌がっていることは想像がつく。
美園が勢いに乗って、更なる追撃の御札を放ち・・・
先に貼り付かせた数枚もろとも、跳ね飛ばされた。
「なっ・・・! こ、こいつ、思ったより力が強い・・・!」
悪霊が反撃に転じた様子で、美園の領域をぐいぐいと押し込んでゆく。
「撤退するわ! 時間稼ぎに札をばら撒くから、灯はその間に・・・!」
「大丈夫、あとは私達がやるよ。」
「え・・・?」
切迫した表情で振り返る美園の肩に、
ぽんと手を置いて、一歩前に出る。
悪霊の力が代わって私を狙うけれど、
相棒が作り出した光の護りは、触れるだけでそれを霧散させた。
「
敵の攻勢が不発に終わった隙を衝いて、
細い光の線を伸ばせば、狙い通りにぐるりと絡み付く。
「・・・!!!」
悪霊の姿は不定形ではあるけれど、この光は魔法の類だ。
手足のある存在だったならば、じたばたともがく様子が思い浮かぶくらいには、
しっかりと相手の動きを封じている。
『アカリ・・・!』
「うん!」
心の中でうなずき合う。これで場は整った。
「
私の言葉と共に、異世界で出会った相棒、
ソフィアが神官服を纏った姿で現れる。
「結界!」
その力が放たれると共に、光の壁が現れ、
悪霊の周りを隙間なく覆った。
美園から聞いた話では、ここで逃がすようなことがあれば、
また別の場所で被害が出そうだから、完全な形で捕らえることを狙っていた。
それが達成できたのなら、もう私達の力を隠す必要は無い。
「行くよ、ソフィア。」
「はい・・・!」
私の中にある力を、ソフィアに注ぎ込む。
「彷徨える霊に、救いを・・・!!」
「・・・!!!」
祈りと共に放たれたソフィアの光が、結界の内側を満たす中、
悪霊の姿は静かに崩れ、薄れゆき・・・やがて、完全に消え去った。
「・・・悪霊は消滅しました。
周囲にも、害を成すような気配はありません。」
「うん。やったね、ソフィア!」
「ありがとうございます、アカリ・・・!」
今回の目的を無事に果たして、私達は微笑み合う。
「えっと・・・これは私、お邪魔かしら?」
振り返れば、微妙な笑みを浮かべた美園の姿があった。
「そ、そんなことないよ。美園もお疲れ様。」
「お疲れ様でした、ミソノさん。」
少しの気まずさを覚えながら、ソフィアと共に声をかける。
「それにしても、本当にあんた達だけでやっちゃったわね。
私、いる意味あったのかしら・・・」
自嘲気味に笑う美園の肩が、少し落ちているように見えた。
「そんなことないよ。悪霊の被害についてたくさん調べて、
ここに私達を連れてきたのは、美園なんだから。」
「はい。ミソノさんが最初に動いてくれたことで、
悪霊の力がどのようなものか、計ることができました。」
私達の言葉に、嘘は何も無い。
この地にある神社の娘として、悪霊の被害を心配し、
熱心に動き回っていたのは、紛れもなく美園なのだ。
私とソフィアはあくまでも、異世界から持ち帰った力を使って、
そのお手伝いをしたようなものだろう。
「そ、そういうことなら、ありがたく受け止めておくわ。」
少し顔を赤くして、そっぽを向いてしまう美園だけど、
その声には力が戻っているようだった。
「そうだ、ソフィアさん。
人通りのある所に出る前に、姿は隠しておいてね?
今の状態で見られたら、また別の騒ぎになってしまいそうだから。」
「はい。出会い頭に悪霊扱いされるのは、私も嫌ですからね。」
「うっ・・・それは悪かったってば!」
「ふふっ・・・冗談です。
ミソノさんの言うことも確かですし、気を付けますね。」
ソフィアが笑って、召喚を緩めた私の中に姿を隠す。
美園がまだ少し、頬を膨らませているけれど、
二人が打ち解け始めているのは、とても良いことだろう。
私の部屋でちょっとした騒ぎとなってしまった、
二人が初めて顔を合わせた時のことを、私は思い返した。
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