第374話 メイド長(バカ)

これが噂に名高いマゾヒストという性癖の持ち主なのか?───と。


「な、何でもすると申すのであれば早く仕事に戻りなさ──」

「嫌ですっ!!」

「ひぃいいいいっ!!すみませんこのメイド長(バカ)にはわたくし達からきつく言い聞かせますのでっ!!」

「死にたいんですかメイド長っ!?死ぬのなら一人で死んでくださいよっ!!つかみかけた春が蜃気楼のように消え去って行くぅぅうっ!」

「あぁ、もう駄目だっ!勝手に病気にしてごめんなさお母さん、私は今日でこの世を去るみたいです」


阿鼻叫喚、この言葉はこんな光景を指すのでしょう───と、わたくしはハイライトの消えた目で目の前で繰り広げられる光景を見つめ居ていると、勢いよく扉が開きセバスが乱暴にわたくしの部屋へと入室してくる。


セバスにしては珍しく不作法であり、焦っているようである。


「フランお嬢様、誠に申し訳ございませんっ!!ほんの少し目を離した隙に、貴女という者はっ!!ほら、行きますよっ!!」

「嫌だーっ!!フランお嬢様の奴隷になるのーぉぉおおっ!!私、知っているんだから!!フランお嬢様の奴隷になるともがっもががががもがっ!!」

「何を言おうとしているのですかっ!?貴女はっ!?」


「そんなの決まってますわっ!!フランお嬢様の奴隷になると美味しいごはんやデザート類を食べれて、更にはすごい効き目の化粧品の数々も使用できるって事をっ!!しかもっ!今あの有名な喫茶店のウェイトレスとしても働けるって知っているんだからぁぁああっ!!私もあの可愛い制服を着て働いたらきっといい人が直ぐに見つかるに決まってますぅぅぅううっ!!」

「「「!!??」」」

「………貴女という人は。すみませんフランお嬢様。メイド長に関しましては後でしっっっっかりと、躾させて頂きますので何卒ご容赦の程お願い致します」

「わ、分かりましたわ」

「それでは」

「嫌だぁぁぁあああああああああっ!!フランお嬢様の奴隷になるのぉぉぉおおおおおおおおおっ!!」

「何を言っているのですか、まったく。メイド長の仕事を押し付け──ではなく、あなた以外に任せられると思っているのですか?ただでさえ誰もやりたがらない───ではなく、メイド長と名乗れるスキルをお持ちのお方は今現在貴女だけでなのですよ?」


そしてメイド長はセバスに首根っこを掴まれ、小言を言われながらも尚も癇癪をおこし、最後の断末魔の如き声を上げ、引きずられながらわたくしの部屋から出ていく。


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