第284話 生け贄ってあの生け贄……ですわよね?

それでも尚黒竜が来ると煩いのであの黒竜はわたくしが呼んだ黒竜だから大丈夫であると説明をして、ご飯であるパンを食べ終えたのか「ケプッ」と可愛らしいゲップをしながらわたくしの胸へと飛んで来たツキヨミへ同意を求める。


あら、デジャヴですか?わたくし、この光景と全く同じ光景を先程見た様に思うのですが気のせいでしょうか?


そして丁度その時、スサノオが到着したのか着地の為に羽ばたく音がした後庭の方から響く様な低い音が響き建物を揺らす。


その音が聞こえるや否や我が家のメイドからお父様やノア様までの、わたくし以外全員が息を飲む姿が見える。


「ヒッ!?」


誰の声であろうか。


我が家のメイドだった様な気もするしお母様もしくはシャルロッテさんの様な気もする、小さな悲鳴が聞こえてくる。


そしてその悲鳴の原因が窓の外であると全員が気付き、言葉を失う。


窓の外には此方を覗くスサノオの大きな金色に輝く巨大な瞳が見えるからである。


窓の外からこちらを見て来る金色に輝く巨大な瞳が見えるこの状況、確かにわたくしもあれがスサノオであると分からなければ普通にビビると思える程、普通に恐ろしい光景である。


「遅いですわよスサノオ」

「すまぬすまぬ、エルフの奴等が少々鬱陶しかったものでな、少しだけお仕置きする程度にしようかと思っておったのだが思わず説教が長引いてしまったわ。しかしほら、最終的にアイツらも涙を流しながら儂の言う事を理解してくれたみたいでの、ついでにと金銀財宝を寄越してくれたわ」


そしてわたくしは若干遅刻気味であるスサノオへ文句を言うと、つらつらと言い訳を並べ立てた後に「ほれっ」とエルフから奪って来たであろう金銀財宝、更に両の手を縛られて目隠しされた生け贄を出してくる。


って、ちょっと待って頂きたい。


い、生け贄ってあの生け贄……ですわよね?


「戻してらっしゃいっ!!今すぐっ!!それと何そんなものを貰って来ているのですかっ!わたくしの住んでいる帝国をエルフとの戦争に巻き込むつもりですかっ!」

「全く、少しくらい喜んでも良いではないか………」

「そう言うのであれば女心と言うものを理解してから言いなさいなっ!いいから今すぐに戻して来なさいっ!!ハリー!ハリーアップッ!!ですわっ!」

「わかったわかった、戻して来よう」


そしてスサノオは「むぅ、女心と言われてもな、数千年も生きている父上ですら、未だに母上から同じ事を言われては分からぬと言っておるのだぞ………女心とはなかなかに難しいものであるな」などと呟きながら来た道を戻って行く。


全く、一体あの高慢ちきなエルフから貢ぎ物と生け贄を出させるなんて、一体何をやらかして来たのか想像するだけでも恐ろしいですわ。


そして辺りを見渡せば先程とは違う表情で静まり返っている面々と、更に一層怒気のオーラが増しているお母様がいるではないか。

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