第273話 天叢雲
実に可哀そうである。
スサノオが鞭ならばいっそのことわたくしは飴となればこの武器の事である。
一発でわたくしに懐き、それはそれは見事な日本刀へと変化してわたくしを助けて頂ける事であろう。
え?わたくしの思考内の考えが全てダイレクトに伝わっているですって?またまたご冗談を。
しかし、魂がある存在であるにもかかわらず名前が無いというのも寂しいではございませんか。
「そうですわね……。 スサノオ、この武器にも名前をつけて差し上げてもよろしくて?」
「あ、ああ。別に良いが………」
「ありがとうございます」
と、言うわけでスサノオの許可も頂いた事ですし、手にしている武器も早く名付けて欲しいという感情が掌から伝わって来る為、早速名前をつけて差し上げる事とする、と言っても既に名前は決まっているのだが。
「そうですわね。天叢雲(あめのむらくも)というのはどうでしょうか?」
そしてわたくしは『お前は今日から剣だ』とほくそ笑みながら名前をつけて差しあげるのであった。
◆
私は夢でも見ているのであろうか。
この世にエルフとして産まれて七百年、目の前で繰り広げられている、まるで御伽噺かのような光景と、美しい女性に思わず見惚れてしまう。
劣等種である人間という馬鹿どもを騙して黒竜の怒りを買い、そのまま馬鹿どもの国へと黒竜の怒りをぶつけて貰うという私の作戦は途中までは上手くいっていた。
しかし、その計画も目の前の美しい女性により全て無駄にされたのだが、今やそんな事などどうでも良いとさえ思えてしまう程、忌み嫌うべき劣等種だとか人間であるとか、そんな事すらも今や等しくどうでも良いと思えてしまう程、目の前の女性は美しい。
「更にあの蘇生術………我々エルフですら未だその片鱗にすら触れていないと言うのに、あの女性は確かに、一度死んでいた筈の黒竜の子竜を蘇らせた………」
最早それだけでも彼女を我がエルフの国へと連れて帰る、エルフの、エルフだけが入る事が許される国であるエストバルアへの入国を認めても良いとさえ思えるのだが、それに加えてあの美貌である。
人間如き劣等種の国に置いとくには勿体無さすぎるというものである。
で、あるならばエルフの国がその蘇生術を彼女から伝授させた上で飼ってやるのが理想といえよう。
エルフの国で過ごせるのだ。
彼女も幸せだと感謝する事であろう。
そうと決まれば行動に移すのみであるのだが、あの黒竜が邪魔で表に出れないという状況がなんとも歯がゆく思う。
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