第67話 それが堪らなく嬉しい
私が急にフランお嬢様の事を主人と発言しフランお嬢様は一瞬何かを考えた後、私がフランお嬢様の事を主人と呼ぶ事を了承してくれる。
フランお嬢様の事である。
恐らく私がドミナリア家ではなくお嬢様の事を主人とする決意をした事などお見通しなのであろう。
そもそも私如きがフランお嬢様ほどの智謀の持ち主の考える事などいくら考えた所で無駄でしかないのだから、私にできる事はただフランお嬢様に忠実な剣であり盾になる事である。
武器というのは使い手が優れていればいる程真価を発揮するというものなのだから。
「そんな事よりも良く無事帰って来てくれました。 が、しかし……ペンダントが発動した事を見るに危なかったようですわね。全く使えませんわ」
今までのお嬢様であれば前半の言葉は無かったであろう。
その事から私の事などお見通しであるという考えが正しい事が伺える。
しかしながらそれが堪らなく嬉しい。
以前と違い少なからず私はフランお嬢様の仲間まではいかないまでもその他では無くなったのだから。
「申し訳御座いません、我が主人様。 してこれが今回得た情報で御座います。 どうやら今回の麻薬が帝国に蔓延し始めている原因は王国の思惑によるものが強いと考えております」
「成る程、成る程。 ……王国は帝国との戦争を目論んでいるのですね。 戦争に必要な大量の資金を集めると共に敵国を弱らせる、まさに一石二鳥という訳ですわね」
「流石我が主人様、正にその通りでございます」
ぞくりとした。
麻薬の蔓延の原因が王国と知っただけでまるで始めから知っていたかのように王国の狙いを言い当ててしまうその叡智。
これが我が主人様であると誇らしく思う。
途中、小さな声で「アヘン戦争と日清戦争が合体した様なものかしら?」と聞こえて来たのだが百年生きてきた私ですらその様な戦争は聞いたことがない。
それは即ち、それ程までにフランお嬢様は叡智だけでは無く知識量もまたとてつもないという片鱗が伺えて来るというものである。
恐らくこの十五年間、たった一人で知識を広めていったのであろう。
家族とは心から繋がる事が出来ず仮初めの関係を築き、そのせいで心の奥底では護りたいと思っている使用人達からは誤解され侮蔑され、フランお嬢様が過ごされた時間は想像を絶する苦しみであった事であろう。
それは魔族と人族の混血種などという苦しみよりも遥かに苦しかったであろう。
そんなフランお嬢様が奴隷以外でも心を開いてくれるその切っ掛けに、私がなれればと、そして使用人達に真実を告げる事が出来る日がいつか来る事を願うのであった。
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