薄荷の煌めきに何を見る
十余一
一
「よォ、
のんびりと茶を楽しんでいた颯介の前に現れた青年は明朗に言い放つ。そして隣にストンと腰を下ろすと、そのままの調子で茶汲み女に「茶と団子を頼むよ!」と声をかけた。
颯介が
そこに現れた青年――
そうして今日も颯介は、突拍子もないことを言う蓮太郎の相手をしてやるのだった。
「医者か
「へェ? どうして?」
「どうしても何も、木乃伊は漢方薬だろう。
少しばかり得意げな様子を滲ませた颯介に、蓮太郎は「さすが、颯介。博識だなァ」なんて呑気にうなづいている。しかし、彼が持ち込んだのはその種の話ではない。
「でも、そうでなくてな。江戸へ
今度は颯介が「へぇ?」と聞き返す番だ。
孫七が「江戸で気味の悪い見世物が流行っているらしい」という噂話をしたことは記憶に新しい。確か蓮太郎は驚きこそすれ、それ以上の興味は持っていなかったはずだ。思い出すように視線を宙へ向けた颯介を余所に、蓮太郎の話は続く。
「俺ァ
美しい人魚を思い浮かべる蓮太郎は夢見心地といった様子だ。それを見た颯介は「なるほど、合点がいった」と思うと同時に、少しばかり意地悪をしてみたくなる。
丁度、茶と団子が運ばれてきた。朗らかな笑顔で茶汲み女を見送る蓮太郎の隣で、颯介がおどろおどろしい様子で語り始める。
「俺が見た瓦版では、人を丸呑みしちまうような大きさの魚に、般若の顔がついてたな。
団子を口いっぱいに頬張っていた蓮太郎には反論ができない。そうしているうちに二の矢が放たれた。
「そもそも木乃伊はどうやって作るのか知ってるか。捕らえた罪人に
団子を咀嚼しながらも恐怖する蓮太郎に、とどめの一矢が突き刺さる。
「夢見がちなお前さんに教えてやるけどよ、だいたいな、見世物ってのは
しかし、蓮太郎は麗しい人魚の姿を諦めることができない。水も滴る麗しい
ゴクリと団子を飲み込み、熱い茶で気合いを入れ、颯介に食い下がる。
「でもよォ、その見世物小屋には、仲間の人魚が木乃伊を奪い返しに来たって……!」
「そういう噂を流すのも商売のうちなんだろ」
蓮太郎渾身の言葉を、颯介はにべもなく払い落とす。しかしこの二人の
颯介はすっかりぬるくなってしまった茶を飲み干すと、「すまん、すまん。
「まあ、俺も気にならないと言や嘘になる。その本物の人魚の木乃伊とやらを見に行ってみるか」
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