人魚姫は、泡沫の夢を見る。

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ようこそ『泡沫の夢』へ

こんにちは

結婚相談所『泡沫の夢』へようこそ。

わたくしは支配人のスワロウと申します。以後、お見知りおきを。


さて、お客様は当店のご利用は初めてでいらっしゃいますね?


どなたかの紹介でしょうか、それとも…


なんと、偶然?

偶然にこの店を見つけていらしたのですか。

それは…海の泡と消えた人魚姫の亡霊に導かれたのかもしれませんね。


ここは深海、人魚姫たちが王子様を見つけようと集まる泡沫の夢。

当店のシステムをご説明させていただきます。


え?

彼女たちですか?

ふふ、今日は人魚姫たちが一堂に集まる日なのですよ。

あなたは本当に幸運な方だ。

残念なことにほとんどの姫は契約中。

この人口の集中する東京の人ごみの中でも、群を抜いて輝く美姫ばかりですからね。

しかし、姫があなたを気に入れば次の契約を許されるかもしれませんよ?

次があれば、ですけれど。


はじめにお伝えした通り、ここは結婚相談所。

しかし他と一緒にされてしまっては困ります。


ご指名いただいた女性と契約を交わし、ひと月の泡沫を買っていただきます。


勘違いされる方が多いので敢えて先に言わせていただきたいのですが、

ああ、お客様がそのような方だとは決して考えておりませんのでご容赦を…

皆様にお伝えしていることなのです。

契約書にも記載はあるのですが、ね…。


彼女たちとの契約は愛人契約のようなものではありません。

交渉中であっても、性的な行為や発言は慎んでいただきます。

もしそのようなことがあれば即刻警察に突き出し、社会的に抹殺させていただきますので、ご了承くださいますよう。


結婚詐欺?

そのようなことは決してございません。

神に誓って、わたくしが保証いたします。

こう見えても、なかなか古い家の出でして、ほら、仕事も別に持っているのです。

どうぞ、その名刺もお持ちください。何かご相談があれば、いつでもどうぞ。


『泡沫の夢』は趣味のようなもの。

たとえて言うのなら、人魚姫から声を奪わず、足だけを与える魔女のようなものです。


当店からは何人ものカップルが婚姻に至っていますよ。


あくまで契約は『結婚相談所』でのもの。

交渉をするために彼女たちの時間を拘束することへの契約です。

彼女たちは真剣に恋人を…結婚相手を探しています。


しかしながら女性には生活があります。

働いている子もいますから、その子たちは週末や休みの日だけの契約になります。

その分契約金もリーズナブルですよ。

10万円から20万円くらいです。


お客様にいつでも会えるよう、時間を作るために働いていない子もいます。

お家賃などがかかる場合もありますから、30万円から…となります。


おや、お帰りですか?


いえいえ、無理に引き止めたりは致しませんから、どうか落ち着いて。


急に立ち上がられては、危ないですよ。


…どうなさいました?


今、入ってきた女性?


ああ。

彼女ですか。


美しいでしょう。あの子はこの中の誰よりも真剣に『愛』を探している一人です。


え?

…契約金が、気になりますか?

しかしあの子は1年先まで予約で埋まっているのですよ。

リピーターの希望も多い。

勿論、その間に結婚相手が見つかれば、その後に予約をしていようとも、彼女との契約は無かったことに…契約金は戻りません。



…1万円です。


彼女の契約金は1万円。


ええ、ひと月に、1万円です。

言い間違いでも聞き間違いでもありませんよ?なんですか1億円って。ふふ、面白い方だ。


しかし彼女の契約は特殊です。


彼女が止めたいと思えばすぐに契約を破棄できる。1日でも、1分でもです。

勿論、男性からの破棄も同じようにできますがね。


それと、他の子もそうですが、人魚姫が気に入らなければ契約には至りません。


指名するのはお客様。決めるのは泡沫の夢を胸に抱く人魚姫です。




さあ、どうなさいますか?




お帰りならば、あちら。


ご指名ならば、どうぞこちらへ。




彼女の名前は『瞳子』




…瞳子をご指名ですね?




改めまして、結婚相談所『泡沫の夢』へようこそ。

あなたの手に夢が落ちてきますように。




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