083-改善

結果として、私の生活はとても改善した。

警備隊を転属になり、首都中心の部署に回された。


「こんにちは」

「こんにちは、Clavis。新しい職場には慣れたかね?」

「はい、色々と助けていただいたおかげで....」


今は、身分を隠すことなく生活している。

あと、バトルアーマーはコールフレアとプラズマキャノンだけを剥がした状態で、譲渡された。

流石に小型核は危険すぎる様だ。

第四首都周辺警備隊の隊長はクレンス・アーティリという人物で、今までの隊長と違って、私にも対等に接してくれる。


「そういえば....君のお友達、ほぼ全員生存だと聞いたよ」

「よかったです....」


爆発に巻き込まれたはずの実験艦隊の面々も、その殆どが生きていた。

流石に無事とはいかず、入院していたが。


「本日は巡回任務以外には何かありますか?」

「今日はないね」

「ありがとうございます」


私は準備を整え、警備隊に与えられた建物を移動する。

格納庫に向かうと、そこにはバトルアーマーがあった。

いつも通り、バトルアーマーの胴体部分に乗り込んで、電源を入れた。


『同期開始』


頭部ユニットと手の甲にある接続部分から物理的接続を確立し、バトルアーマーの制御権を自分に移す。

立ち上がって、いつもの人員が揃うのを待つ。


「すまん、待ったか!?」

『大丈夫です』

「レッド、あんたが余計な事をするから遅れたじゃない!」

「うるせーな、フィオネ!」


ヴィレッド・コーネンと、フィオネ・ロットハイムは、私の警備隊仲間だ。

といっても、まだそこまで付き合いがあるわけではない。

私は格納庫に停められた警備車両の荷台に乗り込む。

いつも、こうして警備を行っているのだ。


「それにしても、何もない場所だよな...警備の必要なんかあるのかよ?」

『治安維持には必要ですから』

「...まあ、英雄様がそう言うなら、そうなんだろうよ」


首都の内陸側の外縁部には、旧首都の跡地がある。

そこの奥は第七警備隊の管轄だが、入口側は第四警備隊の警備範囲だ。

ならず者やホームレスが住み付かないように...という、意外と世知辛い理由がそこにはあった。


『こちらは第四警備隊巡回車両です。当地域は一般国民の侵入が禁止されております、生命反応は把握しておりますので、攻撃されたくなければ直ちに投降しなさい』


私は巡回しながら、バイタルセンサーに映った目標に対して呼びかける。

その全ては武装をオンラインにする前に逃げてしまうが、


「ご、ごめんなさい! すぐに出ていきますから!」


たまに、身寄りのない少年などが出てくる事がある。

その場合は、


「動くな、ほら、乗れ!」

「やめてっ!」


レッドとフィオネが協力して、少年を後部座席に放り込む。

鍵をかければ出られない構造になっており、誘拐にはちょうど良さそうだ。

こうして捕まえた者を、首都で裁くのだ。

可哀想だとは思うが、富める者が存在すれば、貧する者もまた存在している。

けれど、運命に抗いさえ出来ないその姿が、少し前までの自分と重なった。


『私もまた、一人では闘えなかった...』


あの前王と名乗る、私の護衛に扮していた人物。

あの人がいなければ、私は恐らく...破壊されていただろう。


『オッス!』

『わっ!?』


その時、思考に何かが割り込んできた。

通信IDを確認するとクロノスだった。


『びっくりしました』

『今日の業務が終わったら、オレの所に来てくれよ』

『....分かりました』


こういう時のクロノスは、話を聞いてくれない。

そう判断した私は、とりあえず会話を終わらせることにした。


『クロノス、最近はどうですか?』

『最近? ああ.....ジェシカが来たぜ、車椅子に座ってたけど、なんかあったのか?』

『何かあったようですね....』


レジンとはあの件以来会っていない。

然るべき償いをさせるべきだとは思うものの、私ひとりでは彼に会う事すらできない。

こればかりは、あの前王の連絡を待つ他ないのだろう。


『...移動を再開しますので、詳細はまた夜に』

『おうよ!』


今度は何を見せてくれるのだろうか?

私は内心、少しの期待を抱えて、揺れることのない荷台に居座るのであった。

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