081-存在意義の答え

暴走したクロノスは、特異点をそこら中に発生させ、自分が誘導された人工島を破壊し尽くしていた。

特異点による腐食はあらゆる装甲を貫き、少しずつ分解させていく。

だが、その時。

遠方より飛来した弾頭が、クロノスの背面で起爆した。


「ナ...んダ!?」

『クロノス! 止まってください!』


クロノスが背後を振り返ると、腕を組んだ姿勢で浮遊するクラヴィスが居た。

背面にある六枚の重力制御板で浮遊しているのだ。


『お前...タちの策略に、惑わされるカ!!』


クロノスが天に特異点を放つ。

特異点は弾けて腐食の雨となり、クラヴィスに襲い掛かった。


「それでも戦うなら、私はあなたを止める...それが私の存在する意味!」


クラヴィスの両腕のプレートが輝き、表面に薄いシールドを展開する。

クラヴィスは重力板を全て下に向け、シールドで自分の身を守る。


「プラズマキャノン、発射態勢に入ります」


腐食の雨が止み、クロノスが次の行動に移ろうとした時、クラヴィスがシールドを下げる。

その背に接続された二つの砲台がせり上がり、肩に接続される。

そして、射撃。

二つのプラズマ砲弾が瞬時にクロノスに着弾し、凄まじい爆風が生じる。

姿勢を崩したクロノスに向けて、クラヴィスは両腕の砲を展開して向ける。


「姿勢制御良し、発射!」


砲が連続で重い音を響かせ、エネルギーの弾丸がクロノスを襲撃する。

クロノスの腐食した装甲にそれらは食い込み、破砕する。


『死ネ!』


クロノスは特異点を飛ばすが、クラヴィスはただ冷静に左腕を前へと突き出す。


衝撃波砲ショックブラスター、放射開始」


左手先から放たれた衝撃波が、特異点を受け止めて弾き飛ばす。

反発した特異点は、膨れ上がって周囲に腐食の飛沫を撒き散らす。


粒子ナノ投影膜プロジェクター展開」


クラヴィスは右手を突き出し、そこから六角形の薄い盾を作り出した。

腐食の飛沫は盾に直撃するものの、クラヴィス本体に当たることはなかった。

盾が融解し、クラヴィスはそのまま距離を取る。


「これが...レジンの...」


使い方は接続した瞬間にインプットされたものの、原理や技術レベルはクロノスやクラヴィスに搭載されているものより遥かに上回っている。

クラヴィは驚きつつも、戦闘を続行する。


「コールフレア弾頭、発射!」

『ウガアアアアア!!』


クラヴィスの背に接続された一本の細長い筒。

それが前面へと展開され、直ぐに内部に装填された小型爆弾を撃ち出す。

コールフレアとは、小型で範囲も狭いが核に匹敵する威力を持った爆弾であり、たった四発だけクラヴィスのバトルアーマーに搭載されていた。


『がァ...ッ、ォオオオ!』


そんな爆弾の直撃を喰らったクロノスは、吹っ飛ばされて地面に転がる。

そこにクラヴィスは、一気に突っ込む。


『クロノス、聞こえているはずです! クロノス...いや...』


そこでクラヴィスは、逡巡する。

だがすぐに、通信で叫んだ。


『......トモ!』


そして、その瞬間。

クロノスの動きが鈍くなった。


『クラ......ハル、ォオアアアアア!!』


クロノスは自分の「核」へと手を伸ばす。

最後に取り戻した自我で自害するつもりである。


『ダメです!』


それを悟ったクラヴィスは、全速力でクロノスへと突撃する。


『クる...な!』


クロノスは全身を激らせ、腐食の波動を放った。


「嫌です!」


クラヴィスは両腕の盾で波動を防ぐが、その圧倒的な密度に押されていく。

徐々に盾のシールドが腐食し、星核鋼製の盾が溶けていく。


「ずっと考えていました...私は何故存在するのか!」


クラヴィスの脳裏に、自分と同じ顔のアンドロイドの残骸の映像が過ぎ去る。

夢で見たあの光景。

それに、自分が忘れていたこと。


「私は...いや俺は!」


盾が融解し、バトルアーマーは腐食の波動に晒される。

だが、クラヴィスはその波動をかき分けて突き進む。


「お前がいたから...立ち上がれた! だったら俺はっ...!」


バトルアーマーは使用不能なほどに劣化して、クラヴィスの体から離れていく。

だが、そんなものはもう必要ない。


『今度は、お前を助ける番だ』


声が響いた。

クロノスは、自分の内で荒れ狂っている憎悪が引いていくのを感じる。

気付けば、コックピットに...崩れ落ちたその場所に、クラヴィスが座っていた。


「同期開始...」

『ダメだ、クラヴィスッ!!』


クロノスはクラヴィスを外へ放り出そうとするが、脱出機構は壊れていて動かない。

腐食の波動がクラヴィスを侵食しようとした瞬間。

クラヴィスの信号が、クロノスの内部と繋がった。


『オレは...オレは...!』

『俺の...友達だろ?』

『.........ああ!』


電脳世界で、二人は手を握り合った。

直後、クロノスに異変が起きる。


「あれは...!?」


その様子を見ていたハーデンは、あまりの事態に硬直する。

破壊し尽くされていた人工島が、急速に修復されていくのだ。

まるで時間が戻っているかのように。


『俺は...私は、あなたに恩を返したい。だからここにいるのです』

『オレはクラヴィス、お前と友達で居られるのなら...なんだって構わない!』


二人の誓いが、クロノスに秘められた力を解き放つ。

そのフレームが急速に修復されていき、装甲が、武装が、元へと戻っていく。

だが、変化はそこで終わらない。


『クロノス、イメージチェーンジ!!』


クロノスの陽気な声が響き、そのボディカラーが青を基調としたモノへと変化した。

そして、静かにその場へ佇んだ。


『カッコいいだろ、青』

「...ええ」


こうして、戦いは終わった。

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