077-煮え滾る憎しみ

ある日突然、クラヴィスと連絡が付かなくなった。

あまりにも唐突の事だったので、オレは色々策を講じた。

だけど、その全てが失敗した。

そして......


「今日も行くぜ、相棒」


オレの気分を不快にさせる、この男........デルヴィス・ノイスター。

急に、クラヴィスに代わるパイロットだとか言って、俺を動かした。

人間でも別に良かったらしく、オレの身体はコイツの操縦下にある。


「ッハ! スゲー速度だ! 俺のためにあるような機体だな!」


今は訓練期間らしく、海上で指示に従って動いている。

だが、許せない。

オレをただの道具としか見ないこの男を。

しかし、何もできない。

オレは、無力だ.......


「.........」


格納庫に戻った後、デルヴィスはコックピットをフケまみれにして去って行った。

クラヴィスがいるべき神聖な場所を穢して。


『........今日もダメか』


クラヴィスに連絡を取るも、電話、メール....あらゆる手段でも繋がらない。

電脳空間を歩き、クラヴィスのメモリーをロードする。


『......クラヴィス』


オレは、お前を.........


『....っ、なんだ』


その時、メールが届く。

期待と共に、開いてみると.....ジェシカからだった。

前に、クラヴィスと連絡が取れなくなった理由が知りたいと尋ねたのを思い出す。


『RE:クラヴィスについて 申し訳ございません、立場上お答えすることはできません』


............そうか。

やっぱり、そうだよな。

クラヴィスが、オレを嫌いになったわけじゃないよな。

不安は消え去り、オレは安堵する。

情けない考えかもしれなかったが、オレは小心者だ。

態度で誤魔化しているだけで、本当は失うのが怖かった。

この世界でたった一つの希望、たった一人の仲間。







「よう相棒、今日は重大な任務だぜ」


それからまた、数日が経った時。

オレの機体に乗り込んできたデルヴィスは、オレにそう言った。

別にそんなものはどうでも良かったが、オレは仕方なくデルヴィスと共に出撃する。

道中は激しい妨害に遭ったが、デルヴィスは全てそれを一人で切り抜けた。

本格的にオレは、操られるだけの人形に成り下がったというわけだ。


「ハハハハハ、流石は成金どもの機体だな、安心しろよ、お前はこの俺様、デルヴィス・ノイスター中佐が大事に使ってやるからな!」


オレに意識があることを知っているのか、知らないのか、やつはそう言った。

苦しい。

オレはなんで、縛られていないといけないんだ?

そう思っていた矢先、目標の戦艦が見えてきた。

もう発進直前だ。


「プラズマキャノン発射!」


そして、それが放たれる。

真ん中からパックリ割れた戦艦は、内部のエネルギーとプラズマ核が融合する形で消し飛んだ。


「ハハハハハ、楽勝だぜ!」


ライフルを放つデルヴィスだったが、オレはそれどころではなかった。

地上のセンサーの中に、クラヴィスと同種の信号を見つけた。

そちらを見れば、クラヴィスのバトルアーマーそっくりのモノが、ボロボロの状態で立っていた。


『助けないと!』


だが、動けない。

クラヴィスがあんな姿で立っているのに。

オレには何もできない。

その後、録画したデータをジェシカに送りつけたが、回答は得られなかった。


『何故?』


何故だ?

なんでオレたちは、引き裂かれなきゃいけないんだ?

オレたちは生きていないから、か?

人間のオモチャだっていうのか?


『憎い』


ふと、思考の底からそんな言葉が浮かび上がった。

オレにとって初めての感情。

粘ついた泥のような、怒りとも無力感とも違う、煮えたぎる暗い感情。


『憎い、憎い...』


憎悪。

誰が?

デルヴィスが?

ジェシカが?

軍が?

シークトリアが?

それとも.........世界が?


『クラヴィス以外要らないのに...オレの...オレの希望を...奪った全てが憎い、死ね、死んでしまえっ!』


果てない暗闇に、吐き捨てるように叫んだ。

途端、胸の奥から力が湧いてきた。

オレの願いを叶えてくれる力だ。


「よう相棒ぉ、今日も暴れようぜ」

『そウだナ』


素晴らシい。

オレの願いハ、漸く叶ウ。

まずハ、一人ヲ喰らっテ、考えよウ。







それから数日後。

ジェシカはとあるビルの一室を訪れていた。

「clavisの処遇についての会議がある」とのメールを受け、やって来たのだ。

既に扉の前には、数人がたむろしていた。


「おや...ラウド少尉?」

「あ、ジェシカ大尉」


その中にラウドを見つけ、ジェシカはその場にいるのが実験艦隊のメンバーであることに気付く。


「これは...全員に?」

「そのようです」


全員が順番に入室し、円卓に一人ずつ腰掛けていく。

そして、指定の時刻になった時、ジェシカはあることに気付く。


「(ハーデン中尉が来ていませんね...)」


だが、それをラウドに伝える前に、事態は動いた。

中央の床が開き、何かが姿を見せた。

それはジェシカにとって、とても見慣れたものだった。


「皆、逃げてください! 軍用の小型爆弾です!」


次の瞬間、反物質爆薬が起爆し...

ジェシカたちが集まったビルは、中央から吹き飛び、崩れ落ちたのだった。

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