076-存在意義

突入した私は、バリケードを突破して正面入り口の手前に降り立つ。


「敵戦闘員の武装を確認、交戦許可を」

『あらゆる手段での殺害許可を承認する』

「了解」


勝てないと分かっていても、下がるわけにはいかないのだろう。

レーザーガンが、私の機体の装甲板を焼く。

当然ながら、貫通などしない。


「........」


守るはずだったのに。

命を張って守るはずだった相手に、私は銃を向けている。

.......否、そうではない。

守れるはずがなかったのだ。

この戦艦同士が凄絶な戦いを繰り広げる戦場に、人型兵器など何の意味があったのか。

全ては、軍部のお遊びでしかなかった。

私の転生も、私の役目も.....全て、意味のないものだった。


「た、助け――――」


私の機関砲は精度こそいいが、その威力は人体には強すぎる。

射撃開始から2秒と経たず、警備兵はその身体に大穴を開けて倒れ込む。

それと同時に、バイタルセンサーから反応が消えた。

もう助からないだろう。


「突入します」

「ま、待て、助け――――」


入り口の前で腰を抜かす生き残りを、私は機関砲の盾部分で殴りつけた。

骨の砕ける嫌な音がして、バイタルセンサーから反応が消える。

それを確認した私は、スラスターを起動し入り口のバリケードを突破する。

予想通り、ロビー内には敵性の反応が少なくとも十はあった。


「.......ロビー内の人員を殲滅しますか?」

『こちらの接近に気付かれている以上、無駄な時間の浪費は避ける必要がある。侵入ルートを構築し、至急突入しろ』

「はい」


どちらにせよ、対人装備では私を止めることはできない。

こちらが足を止めない限り、狙撃も不可能だ。


「こいつ!」

「止めろ、通すな!」


無数の射撃を受けながら、私は受付の横にある通路へ突入し、分厚い扉に直面する。


「破壊します」


機関銃で扉に穴を開け、そこに手を掛けて引き裂く。

隙間から見えたのは、無数のバリケードだった。

事務机などを主体とし、歩兵の侵入を防ぐ目的のものだ。


「.........」


そんなものは、対大型兵器仕様の実体弾の前では紙と同じだ。

障害を吹き飛ばし、私は前へと突き進む。


『全職員に告ぐ、我々はこれより脱出を行う。引き続き侵入者に対し防衛を行え。発射場に侵入した人間は、如何なる理由があろうとも射殺する、繰り返す――――』


そんなアナウンスが、遠くから聞こえてくる。

急がなければならない。

私は通路を突っ切り、より広い回廊へと出た。

直ぐそばの案内板を見る限りでは、メインの通路に出るには左、倉庫は右のようだ。

最近替えられた形跡がないので、恐らくはこれが正しいものと思われる。

私は左へと曲がり、ゲートを破壊する。

思った通り、レーザー砲や実体銃程度では破壊できない構造だ。


「内部に対兵器武装が持ち込まれる想定はされていないようです」

『了解した。我々は車輛搬入口から内部に進入する。引き続き、発射場への移動を続行せよ』

「......了解!」


メインの通路へと出た私は、レーザー兵器による迎撃に遭う。

だが、それは道を教えてくれているのと同じだ。

装甲板がレーザー照射で融解し、内部にまで貫通する。

だが、それは何の意味もない。

動力炉と動作に影響さえなければ、全て無駄だ。


「な、何でだ!」

「何で殺――――ぎゃああ!!」


弾数が少ない。

仕方がないので、頭蓋を脚部で踏み抜き、殺した。

後続がレーザー兵器で足止めされれば厄介だ。


「装填を実行」


機関銃から手を放し、安全装置を外して弾倉を装填する。

使い切らずとも、弾倉さえ装填されていれば自動で弾が補充される仕組みだ。


「司令部、弾倉の予備を2個使用しました」

『了解、残弾に気を付けろ』

「了解」


私はさらに進む。

警備の数は更に数を増し、それに合わせて被弾数も増えていく。

あまり広い場所ではなく、回避機動が取れないのだ。


「ダメージコントロールを実行します」


少し立ち止まり、身体修復を実行する。

といっても、優先度の低い部位の外装を、重要度の高い部分に置き換えるだけのことだ。


「ひぃっ、化け物!」

「...」


背後から撃たれた。

頭部に損傷が起きたが、視覚に異常はない。

冷静に振り返り、攻撃者を殺害する。


「急を要する損傷ではないと判断、前進します」


そう呟き、更に進む。

防弾扉を何枚も破壊したその先には、巨大な格納庫があった。

だが、ここではない。

もっと奥に行く必要がある。


「あいつを止めろ、どんな手段を使ってもいい!」

「...!」


広い空間に出た私だったが、多すぎる攻撃者を前に回避機動を行わざるを得なかった。

左関節部に中損傷。

スラスター推進器に熱由来の損傷。

ダメージコントロールにより防衛機構を構築。

優先度の高い攻撃対象を選別。

確実に抹殺する。


「......」


気付けば、弾倉は空になっていた。

格納庫にあるあらゆるものが火に包まれ、生きている者はいない。


「......?」


どうしたのだろう。

怖い、怖くなければならない。

恐ろしい、自分が恐ろしく感じるべきだ。

だがそれは、ひとかけらの衝動ですら私を貫くことはない。


「......行かなければ」


私は格納庫を出た。

そして、発進直線の中型戦艦を見た。


「...攻撃対象を確認、内部に突入します」


スラスターを最大稼働し、一直線に戦艦へと向けて滑走する。

あの船さえ破壊すれば良いのだ。

乗組員の生存も、内部の人質の解放も、望めなければ無視して良いとのことだ。

あの船を逃がさない事、それが、私の存在意義だ。


「...っ!」


しかし、一手遅れた。

船は空へと舞い上がり、私の機体性能では届かない高空でワープの準備を始めた。


「.........」


私は立ち止まる。

もう出来ることはない、有効射程内ではあるが、あの船の装甲板は破れない。

諦めた私は、クロノスに届かないと分かっていても、メール機能を起動しようとして.......


「なっ!?」


次の瞬間、戦艦が火を噴いた。

装甲板が融解し、内部の動力機関が反応を起こした形で、戦艦は自爆、崩壊して大地に墜ちた。

結果として、作戦は成功した。

だが、それを行ったのは誰か?


「.......クロノス」


見たことのある巨体が、空を舞い、去っていく。

雲を裂き飛翔するその姿は、私の記憶そのままだった。


「アハ....ハハハハ.......」


笑いが漏れた。

クロノスが一人で動くことはできない。

だからきっと、新しいパイロットが現れたのだろう。

私は、もう不要なんだ。


「ハハハハハハ!」


面白い。

何故だか、笑いが止まらない。

回線も切断して、ただひたすら笑った。

回収部隊が到着するまで、私は笑った。

笑った。

笑った。

笑った....

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